保安林

保安林とは、一定の公共目的を達成するために、森林法二五条にもとづいて農林大臣によって指定され、特定の行為の制限や作為義務の課せられる森林であって、講学上の公用制限のなかの公物制限の一種です。森林は、一方で林業生産の場として国民生活に欠くことのできない木材その他の林産物を供給し、森林生活者や林業生活者の生活の糧として機能していますが、他方で土砂崩壊等の災害を防止し、水源をかん養し、人々に保健休養の場を提供するなど、広く社会生活の安全と生活環境の保全に貢献することによって、公共的な機能を営んでいます。そこで森林法は、森林の公共的機能に着目して森林を保安施設としてとらえ、保安林という固有の制度を設けることによって、その公共的機能を適正に維持しようと図っているのです。

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保安林は公用負担の一種として私権に対する重大な制限を意味するため、これを無制限に指定できるものではありません。森林法二五条一項は、そこで農林大臣が森林を保安林に指定しうる場合を限定しており、これが区分の標準となりますが、実務上はさらにこれを細分し、保安林を次の一七に分類しています。
(1)水源かん養保安林、(2)土砂流出防備保安林、(3)土砂崩壊防備保安林、(4)飛砂防備保安林、(5)防風保安林、(6)水害防備保安林、(7)潮害防備保安林、(8)干害防備保安林、(9)防雪保安林、(10)防霧保安林、(11)なだれ防止保安林、(12)落石防止保安林、(13)防火保安林、(14)魚つき保安林、(15)航行目標保安林、(16)保健保安林、(17)風致保安林。
この分類は行政上の便宜のためのものにすぎず、例えば飛砂防備保安林兼防風保安林のように、同時に二つ以上の目的を兼ねることも可能です。これを兼種保安林とよんでいます。
保安林の指定およびその解除は農林大臣の権限ですが、上述のうち国有林の保安林および民有林の(1)〜(3)については農林大臣みずからが、民有林の(4)(17) については権限を委任された都道府県知事がこれを行ないます。保安林の指定、解除は権限を有するものが必要と認めた場合および直接利害関係人の申請によってなされます。指定、解除にあたって農林大臣がその必要性、公平性、妥当性を慎重に検討しなければならないことはいうまでもありませんが、農林大臣は広く外部の意見を聴取し適正な判断を下すため必要と認めたときは、中央森林審議会に諮問することができます。また、直接利害関係人等は、指定、解除の告示があったときには、ご三〇日以内に意見書を都道府県知事を経由して農林大臣に提出することができ、農林大臣はその際には公開による聴聞を行なわなければならないとされています。
保安林の指定は告示によってその効力を生じますがそれによって、法令の定める特定の場合および都道府県知事の許可をうけた場合を除いて、立竹の伐採、立木の損傷、家畜の放牧、下草、落葉、落枝の採取、土石、樹根の樹掘、開墾その他の土地の形質変更などは禁止されることになります。知事は無許可や条件違反者、または偽りその他不正の手段によって許可をうけた行為者に対しては、その中止を命じ、造林、復旧に必要な行為を命じることができます。また森林所有者は指定施業要件に定められた植栽の方法、期間および樹種に関する定めに従い植栽する義務を負い、これを履行しない場合には知事がその植栽を命じることができます。
保安林の指定の解除は、保安休の指定理由が消滅したとき、および公益上の理由により必要が生じたときに、先の指定の場合と同様の手続に従ってなされます。しかし解除はそれが公共の安全に係わるものだけに、安易になされるぺきではなく、指定の際の事情を上回る強い必要性の認められる場合にのみ許されるぺきです。そこで二六条一項の指定の理由が消滅したときはともかく、二項の公益上の理由の解釈をめぐっては多くの問題があります。
数多く存在する多数の公用制限に対してどの程度の補償をなすべきかは、今日のごとき高密度都市化社会における利権のあり方にもかかわることであって、多くの難しい問題を含んでいます。しかし少なくとも、その制限が当該財産権そのものの社会的効用の規制とは無関係な目的に出ずるもので、特別の負担と解される場合に補償を認めるぺきことについては、多くの学説が一致するといえます。このような観点から補償の定めをおく土地利用規制立法は少なくありませんが、森林法三五条も同趣旨の観点から保安林の指定によって通常受けるべき損失の補償をうたっています。しかし実際には、補償すべき原因や補償の範囲、額が不明確であったり、行政庁が問題の紛糾するのをおそれて規制に手ごころを加えたりすることから、森林法以外の補償規定は全く機能しておらず、むしろ補償規定が行攻の妨げになっているという指摘さえなされています。今後は単純な財産権補償というよりも、むしろ生業補償的な観点から、適正な補償の基準が定められるべきです。
以上のように、森林法三五条の補償規定は、現実に機能している唯一の例ということができる。しかし実際の補償の範囲は、法律の定めどおり森林所有者およぴその他権限にもとづく土地の使用収益者すべてにまではおよばず、森林所有者の、それも立木にかぎられています。そこでこの程度の補償内容では一般的に決して充分ということはできないのですが、他方で出林所有者には大地主や大企業も多く、通常受けるべき損失のすべてを補償すべきか否かにも問題が残ります。

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