自然公園法上の公用制限

自然公園法は優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もって国民の保健、休養及び教化に資する目的のため、国立公園、国定公園の区域内について、私権の行使を制限する公用制限の規定を設けています。一般に公用制限に対し、憲法二九条三項との関係で補償を必要とするかについては学説が分かれています。肯定説も、法の目的、制限の性質、態様、侵害の程度などの要素を考慮して補償を必要とするか否かを判断しています。一般に公共の福祉のため、あるいは権利自体に内在する制約のため公用制限をする場合は補償を必要としないとか、財産上の特別の儀牲を負わしめる場合は補償を必要とするとか解されています。この公共の福祉は、社会国家的側面からもみるべきであると解すべきであるため、自然公園法の目的による公用制限も公共の福祉による制限ですが、同法がそれについて補償規定をおいているのは、それが特別の犠牲を与える場合を考慮したものと解すべきです。これに対 して、公共の福祉について社会国家的見地からの制限の場合には補償を必要とする考え方もあります。そのように考えても、自然公園法第一条の規定から解すると同法は、他方において人間の生存基盤である自然環境の適正な保全により国民の健康で文化的な生活を図るという目的にも資するべきものであるため、そのための私権の制限は権利自体に内在する制約と考えられる余地もあります。また、同法の行為制限の内容からみると公共のために用いるに該当せず、憲法上の補償は必要ないとする考え方によれば、同法による補償規定は憲法上のものではないことになります。

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自然公園法三五条により損失補償が行なわれるのは、次のような要件にもとづきます。
特別地域、特別保護地区、海中公園地区においてそれぞれ法に規定する許可を要する行為について許可を得ることができない場合。
法一九条により許可に条件を付せられた場合。
普通地域内において法二○条二項の規定による行為の禁止、制限、処分等をうけたため損失を被った場合。
国立公園、国定公園の指定、公園事業の決定、執行に関し職員の実地調査行為により損失をうけた場合。
しかし、この補償は、その算定が困難なこと、財政上の都合、補償問題を嫌う行政が規制を厳格に実施しないなどのために、ほとんど行なわれたことがなく、実質的には機能していません。それは、次のような理由にもとづきます。
第一に、規制区域内における規制対象行為の種類が多様であり、かつ補償をうけうる者の範囲が法文上明確にされていない。動植物の捕獲、たき火、車馬の乗入れ制限などの場合、土地についてなんら権限を有しないものも不許可等になった場合に補償請求が認められると解しうる規定がありますが、そのような解釈は期らかに不合理です。
第二に、不許可により通常生ずべき損失の範囲が明らかでない。
第三に、補償金の支払方法にも、一括払いか継続的定期的に払うべきかの問題があります。
第四に、補償金支払いの効果として、一度支払いをうけたものは、再度申請が拒否された場合再び補償を請求できるかなどの問題があります。
自然公園法三五条などによる公用制限に対する通常生ずべき損失の範囲については、法に具体的に算定基準が定められていないため解釈によらざるをえませんが、それには次のような考え方があります。
(1)公用制限と相当因果関係、ある土地所有者の損失の一切。不許可補償についていえば建築準備費、代替地購入など特別出費、将来得べかりし賃貸料などです。
(2)土地利用制限による地価低落分、または値上がり期待の喪失分もしくはその分譲によって得られたであろう利益の喪失分。この説はいつの段階での地価の低落をいうのか、低落分を現実にどのように算出するのか問題があります。
(3)通常の損失の範囲をきわめて狭く解し、将来の期待利益の喪失、地価の低落は補償を要せず、特定の利用行為の制限禁止により土地所有者が現実に予期しえない出費をせざるをえなかった額のみ。例えば保存地域の指定により家屋の改築が禁止され従来の営業ができなくなったり、木材の伐採が禁止されて材木業者が従前の事業を続行できなくなった場合の損失のみ。
(1)の説は所有者の主観的意図や思惑に左右されるので適切でなく、(2)説は、自然公園法が自由主義的な財産権保護思想に立脚するかぎり、こう解するのが適切だとしますが、自然環境保全法の制定に伴い、その目的との関係で自然公園法は社会国家的性格を帯びてきたものと解すぺきで、原則として利用制限は権利内在的制約としての利用価値の喪失まで補償する必要はありません。ただ、それによる偶発的損失および憲法二五条の越旨から、内在的制約といえども、その利用制限が相手方の生活を脅かす場合には補償が認められると解釈すぺきです。
自然公園法による不許可処分によって土地の利用が著しく制限され、その価値が低下した場合、相当因果関係説や地価低落説によれば補償が必要となります。後説によればその額は許可が得られた場合に予想される額と不許可になった場合の土地の価額との差額ですが、予想価額を算定することはきわめて困難となります。それ以外に、不許可処分によって土地所有者らに現実に不測の出費が必要となった場合には、その費用も付帯的損失として補償の対象になるとしています。しかし、許可になるか不許可になるかわからないのに許可を前提として土地あるいは建築材料を購入し、また、不許可になったので代替地を購入したとしても、それらを不測の損失とみるのは、建築基準法による建築確認制度の場合と比較してみても不合理であり、同法と自然公園法との間にそれほどの制限の性格についての差があるとも考えられません。ただ、従来の老朽建物の改築許可申請に対する許可は、建物の移転費、営業上の損失等の実損が補償されるべきですが、現実に自然公園法上では、従来と同型の建物としての改築が不許可になることはなく、旧型以上に拡充したり構造を変えることができない損失は補償の対象とはならないと考えるべきです。また、家族の増加に伴う快適な生活の維持に必要な生活空間拡大のための増築等は、面積も少なく不許可にすぺき場合は少ないのですが、不許可とするときは生活の確保のため他に移転する費用などの補償が必要となります。
付款つき許可の場合とは、不許可の場合のように土地の使用、収益が全面的に禁止されず、付款も風致、景観の保護のため必要最小限にかぎられるため、それによって土地の本来的効用は通常失われません。したがって、付款により課せられた義務の履行に特に必要な受思限度をこえた特別の損失をつける場合にのみ付款補償が認められるべきです。例えば工作物の許可に特別の材質、色彩を指定する付款により、受忍限度、内在的制約をこえるような超過費用を必要とするときは補償を要します。なお、実質的には不許可に等しい場合には不許可補償に準じて考えるぺきです。
普通地域内で、当該行為を禁止、制限、必要な措置を命じたことによって生じた損失の補償ですが、前者の命令については、実質的に行為の全部または一部の不許可に等しいため、その補償算定基準は不許可補償に準じます。ただ、当該行為がその地域で従来全く行なわれていなかったような場合については、単に期待利益の損失にとどまるものとして補償の必要はありません。必要な措置が命じられた場合には、付款補償に準じてかまいません。例えば建物の除去命令については、除去費、移転費等を補償すべきです。ただ、新たに工事をする場合、その工法や林質の指定はそれが内在的制約や受忍限度をこえないかぎり補償を要しないと解すべきです。

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