立木所有権の留保と分離

立木の物権変動をめぐる公示方法に関連しては、次のような事柄が問題となります。その一つは、立木所有権も地盤である土地の所有権も、ともに同一人に帰属し、しかも立木法上の保存登記がなされていない場合に、立木所有権を留保して、その地盤のみを売買の目的とするとき、その立本所有権留保の公示方法をどのように取扱うかということです。その二は、立木所有権と地盤である土地の所有権とがそれぞれ別個の者に帰属し、しかも立木法上の保存登記がなされていない場合に、それぞれの所有権に変動が生じるとき、その公示方法をどのように取り扱うかということです。このうち前者の問題については次に述べるように特に立木とその地盤である土地との関係をどのように理解するかによって、かなり結果に差異のみられるところです。しかし、後者の問題については、立木とその地盤である土地の関係をどのように理解しようとも、ほとんどその結果には差異のないところであるといえます。つまり、両者の関係をどのように理解するにせよ、もともと立木と地盤とが別個の権利の客体になっている場合であり、したがって、それぞれの物権変動に つき、それぞれ公示方法を備えることが当然といい得るからです。したがってまた、後者の問題については、原則として、それぞれの物権変動に応じて検討される公示方法についての理論をそのまま適用してゆけば特に問題はないともいい得ます。

スポンサーリンク

立木売買に当たり、通常みられがちな地盤とその上の立木とが同一の所有者に属する場合に、立木のみが譲渡された場合の公示方法については、これまで多くの判例が現われており、例えば、この点について最高裁判決も、立木法の適用を受けない立木については、土地に生立したまま、立木だけを買受けた者は、その所有権取得につき明認方法を施さなければ、これをもって第三者に対抗しえない。対抗しえない第三者の範囲は民法第一七七条の規定に準じて判断すべきである。と判示しています。しかし、同じく立木と地盤とを分離しての譲渡であっても、ここで問題とするような所有者が地盤のみを譲渡して立木所有権を留保する場合の公示方法については長い間判例のみられなかったところです。しかし、この点について、先に最高裁は、きわめて注目すべき判断を示しました。つまり、最高裁判決によれば、土地の所有権を移転するに当り、特に当事者の合意によって立木の所有権を留保した場合は、該留保を公示するに足る明認方法を講じない以上、留保をもってその地盤である土地の権利を取得した第三者に対抗し得ないと解するのです。そしてこのように解する理由としては、立木は本来土地の一部として一個の土地所有権の内容をなすものですが、土地の所有権を移転するに当り、特に当事者間の合意によって立木の所有権を留保した場合は、立木は土地と独立して所有権の目的となるものですが、留保もまた物権変動の一場合と解すべきであるから、この場合には立木につき立木法による登記をするかまたは該留保を公示するに足る明認方法を講じない以上、第三者は全然立木についての所有権留保の事実を知るに由ないものである。ことをあげています。つまり、最高裁判決によれば、立木所有権留保も一つの物権変動にほかならず、その限り明認方法その他の公示方法を要するものと解するわけです。
立木所有権留保をめぐる判例理論に対して、この点についての学説はどうかといえば、学説はほば二つに分かれています。一つは、この判例理論をそのまま肯定する通説の立場であり今一つは、判例理論、したがってまた通説に対して批判的な有力説の立場です。このうち、通説は、判例理論と同様に、立木は、原用として、その地盤である土地という一個の所有権の内容ないしは構成部分であると解し、したがって、所有者が立木を留保する場合には、立木を地盤から分離して独立の所有権の客体とする物権変動が存在し、したがってまた、第三者に対抗するためには、公示方法を備える必要があると解するものです。これに対し、有力説は、判例、通説が、当然の前提としている、立木が、原則として、土地所有権の内容ないし構成部分になる、ということそれ自体について疑問を提起するものです。そして、この点についての民法起草者の見解を明らかにすることによって、判例、通説とは反対に、立木と地盤が同一人に帰属する場合であっても、むしろ、立木所有権は、原則として、その地盤所有権から別個、独立の存在であることを承認しようとするものです。その結果、ここにとりあげる立木所有権留保のような場合においては、判例、通説のいうような、立木を土地から分離して独立の所有権の客体とする物権変動は存在する余地がなくなり、また、日本の登記には公信力は認められないところであるため、したがって有力説の立場からは、このような場合は、もっぱら、全くの無権利者が民法一七七条にいう、いわゆる第三者に該当しないという解釈理論の適用されるべき場合となってくるのです。
判例、通説と少数説との差異は、立木と地盤との関係をどのように理解するかにかかっています。その点で、民法起草者の見解や、さらには立木取引の実情などを考慮する場合、有力説の見解は、きわめて示唆に富むものといい得ます。しかし、その反面、有力説に対しても、全く疑問がないかといえば、そうでもなく、例えば同じく立木といっても、そこには様々な態様があり得るわけであって、これに対し、常に一律に、立木の地盤からの原則的独立性を認めることが妥当であるのか、また、立木の独立性を認めることの結果、事実として立木所有者の無権原な他人の土地使用という事態が起こりそうに思われますが、その場合の土地使用の関係はどのように処理されるのかなどです。もともと、このような立木所有権留保の場合の、本質的な争点は、立木をめぐって、土地登記簿を信頼して取り引した第三者を保護するか、それとも少なくとも当事者間には真実の権利者である立木所有権留保者を保護するかにあるともいい得ます。そして、このような場合に、結果の妥当性から、本来、対抗要件の問題ではありませんが、これを対抗要件の問題と擬制することによって、事実上、登記に公信力を認めたのと同様な結果を導く場合のあることは、すでに取消しと登記、取得時効と登記などの関係において、その例をみるところでもあります。
以上で検討した立木所有権の留保に類似する事柄としては、さらに地盤を譲り受けた者が所有権取得の登記をしないまま地盤上に立木を植栽した場合の、立木所有権の公示方法の取扱いが問題になります。この場合、地盤について二重譲渡が発生すれば、少なくとも、地盤につき登記を有しない立木植栽者は、地盤所有権をもって第三者に対抗し得ないわけです。しかし、立木については、権原に基づいて植栽されたものであるため、ここに、立木所有権の地盤所有権からの分離という事態の生じる可能性がでてくるわけです。このような場合の立木所有権の分難についても、判例は、先の土地所有権留保の場合と同様に、その分離も、やはり一種の物権変動とみて、立木所有権の分離につき公示方法を備えなければ、第三者に対抗し得ないものと解しています。つまり、かかる立木所有権の地盤所有権からの分離は、立木が地盤に附合したまま移転する本来の物権変動の効果を立木について制限することになるのであるため、その物権的効果を第三者に対抗するためには、少くとも立木所有権を公示する対抗要件を必要とするとなすものです。そして、このような判例の立場は、さらに地盤の賃借人の植栽した立木分離についてもみられるところです。
この判旨からも理解されるように、このような判例理論は、その根拠を、立木所有権の留保の場合と同様に、結局、もともと立木と地盤とは一体であるということにおくものであることは述べるまでもありません。つまり、両者は、もともと立木と地盤とは一体であることを前提としての、いわば意思表示による物権変動としての留保、および法規による物権変動としての分離という差異にすぎないこととなるわけです。したがってまた、このような判例理論は、立木と地盤との原則的一体性を承認する通説の立場からは、そのまま支持されるところでもあります。

田舎暮らし

保安林/ 自然公園法上の公用制限/ 河川保全区域の指定と制限/ 道路法における沿道区域/ 自然環境保全のための法制度/ 自然保護法制の問題点/ 住宅地の価格/ 大都市と土地/ 立木の売買/ 立木の移転に関する公示方法/ 立木所有権の留保と分離/