農地分与

昭和三七年の全国調査に関しては、次のように整理されています。生前分与による農地分与は、遺産分割による農地分割よりもはるかに多く行なわれていますが、その最大の原因は次の二点にあります。第一は、農家の家計上農業外収入が農業収入よりも有利なので、農民が農業労働時間をへらして非農業労働に従事することを望み、その結果徒来の農地を必要としないから農地を分与するという分与農家側の事情です。第二は、非農業労働による収入が不充分、不安定であるため、零細な農地でも必要とするという受与農家側の事情です。この二つの事情は、一方では生産性の低い農業経営方式を前提とし、他方では低賃金と労働機会の不安定とを前提としています。そして、これらの事情が存在するかぎり、現在進行しつつあるような型の農地零細化は進行するであろうとしています。

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この分析は、農地分与の原因を、生産性の低い農業経営方式と、低賃金、労働機会の不安定にあるとしていますが、この事情は、むしろ農地非分割の重要な原因というぺきです。農民の非農業労働への従事、兼業化は、他産業と比較して生産性の劣悪な状況におかれた農民が、家計補助のためによりましな現金収入を求めてこれを行なわざるをえなくなった結果であり、相当の経営規模を有する自立経営農家だけが、それをなさずに、専業経営を維持できたのです。したがって、多くの兼業化した農家にとっては、農地を分割する余裕は存在せず。また他方、非農業労働の低賃金と労働機会、労働条件の不安定は、兼業農家の生活保障の最終的よりどころとして農地を必要視させるところとなり、これが分割を避ける原因となっています。このような、低生産性農業と低賃金、不安定な農業外労働との相互補完、依存関係が、農地の細分化を困難にし回避させる原因であったと考えられます。実際に前記調査においては、農地が細分化された場合よりも、非分与、非分割の例が圧倒的に多いのであり、その原因は、この点に帰せられるです。このように理解することによって、その当時、兼業化におもむく農家の農地を、所有権移転の形で自立経営農家にむけて流動化させようとした政策が実現しなかった事情も、共通の基礎にたつものとして理解することができるようになります。
そして、一定の形での生前分与があることが前提となって、遺産分割による農地分割は少なかったという分析があります。その生前分与の内容としては、義務教育以上の教育費用、結婚費用、独立資金、宅地、住宅、家計補助用の田畑などがあります。これらのなかで、義務教育以上の教育費や結婚費用を、相続における利害の調整をはかるものとしての生前分与に含めて分析することには、やや疑問が残ることになります。高度成長期以降においては、義務教育以上の教育が一般化しつつあるのが現状であり、また結婚資金についても、各農家が子女に対し相応の出費をするのが通常です。しかも、これらの出費のかけかたにおいて、農業後継者とそうでない者との間に差異を見出すのは困難になっています。したがって、関係当事者の間には、これらの出費を、相続に関連した財産分けの一環とする意識は、ほとんどないと思われるからです。それゆえ、それらの出費があることが、相続による農地分割を避ける原因となっているとするのは困難です。
農家相続は、農業のあり方、これを規定する農業政策、法制によって大きく影響をうけざるをえません。その動向との関運で、今後検討すべき問題として、以下のような諸点があげられます。
第一は、営農指向の変化が相続にどのような影響を及ぽしているかを明らかにすることです。農業外的条件および農業内的条件のいずれにも、経営規模の維持、拡大に向かわせる要素よりも、経営規模の縮小に向かわせる要素が強く存在しています。これが、相続に及ぼす影響の実態を明らかにする必要があります。
第二は、この問題と関連して、都市化地域および過疎化地域において、農家相続がどのような展開を示しているかを追跡することです。都市計画法による市街化区域では農地転用が自由になったこと、他方農振法による農用地区域では農地転用が認められなくなったことが、分割相続の促進または阻止要因としてどのように働いているかという点です。
第三に、すでに都市化地域では、経営単位としての農家の解体化現象がみられるところですが、過疎化地域では、誰が後継者として、農業経営を担当していくかという点について、学卒者の流出による後継者不在の問題が生じています。実態の解明とともに制度的対応の要請される点です。

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