町村有の原野の借り受け

不動産業者や個人が施設や別荘などをつくるため山林原野を買い入れ、あるいは借り受けて、いざ建物を建てようとすると地元住民が入会権を主張し、そのため建物が建てられなくなったり、そのほか紛争を生じることが少なくありません。山林原野、特に市町村有の山林原野はほとんどがかつて部落有の入会地であって、現在もなお入会地、すなわち地元住民の入会権がその土地上に存在している場合が少なくありません。しかもその入会権の存在の認定が必ずしも容易でないために入会権の存在を知らずに原野を買い入れ、あるいは借り受ける例がしばしばあります。入会権の存在を知らずに町村有地を借り受けた者が、入会権者たる地元住民から入会権を主張された場合、入会権の存在を知らなかったことに落度があるために、入会権者たる地元住民と話し合って解決するほかなく、話合いがつかないかぎり、借り受けた権利は入会権を侵害することになるため、結局はその権利を放棄するよりほかありません。それ故に別荘地等にするつもりで山林原野を借り受ける場合、その土地が入会地であるか否かを十分に確かめる必要があります。

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入会権と部落等、一定の地域の住民集団が土地を共同で管理支配し、使用収益する権利です。日本では明治以前から村落の農民が、共同で、自給生活に必要な草木等を採取するために一定の山林原野を支配してきましたが、民法はこの支配の権能を入会権として承認しました。そして入会権の権利行使の具体的内容は、ながく村落農民の生活に必要な燃料の採取、飼肥料のための採草あるいは牛馬の放牧等でした。しかし、戦後の急速な農村への商品経済の浸透は、採草や採薪等の必要性を減退させました。そのため、入会地における採草あるいは薪取り等はしだいに行なわれなくなり、かわって天然林の育成や人工植林等が多くなるとともに一方ではほとんど利用されない入会地も生じるにいたりました。
入会権はこれを登記することができません。しかし入会権が登記なくして第三者に対抗しうることは判例の示すところです。市町村有地上に入会権を有する地元住民は、第三者であるその土地の借受人に登記なしに対抗できるのであるため、借受人が借地の権利を否認される結果となります。それ故に借受人がその土地上に入会権の在否を確認する必要がありますが、登記によることができないので、具体的な事実によって確認せざるをえません。
入会地が採草、採薪等に利用されている場合には草刈りとか薪取りのための出入りなど具体的な行動を伴うので入会地であるか否か比較的判断しやすいのですが、天然林の育成などほとんど山入りが行なわれず、また格別に利用せずただ草木の生立するままにされている場合など、入会地であるのか否か、入会権が存在しているのかそれとも消滅したのか判断しがたい場合が少なくありません。一部には、入会権を地域住民集団が山林原野を使用収益する権利であると解し、採草や採薪あるいは放牧、植林などを行なわなくなれば入会権は消滅するという見解があります。市町村執行部には往々にしてこのような見解にたって市町村有の山林原野の貸付等処分をすることがありますが、そのためはじめに述べたような問題を生じるのです。
市町村有地上の入会権は共有の性質を有せざる入会権で、一種の用益物権ですが、しかしその用益内容は限定されていないので必ずしも山入り労働を必要とするわけではありません。天然林の育成などむしろ山入りをしないことのほうが多く、天然林育成のため山入り停止の合意をしても入会権の存在に影響を及ぽすものではありません。入会地をただ草木の生立するままにまかせ、自然のままにしている場合は、通常地元住民は利用したくともできないからそのままにしているのであって、単純に入会権を放棄したとみるぺきではありません。つまり地元住民に必要な資力あるいは労力があれば植林その他に利用しますが、それがないためやむをえずそのままにしているのであって、この場合でも入会権は存在しているのです。入会権は土地を使用収益するばかりではなく、管理支配する権利であるため、地元住民集団が管理支配の権能を放棄しないかぎり、入会権は消滅しません。もっとも、入会集団が解体した場合や、市町村がみずからその土地を利用し、あるいは第三者に利用させてもなんら異議の申立てをしないような場合は、入会権は消滅したと解されます。何によって入会権の在否を判断するのかというと、このことは、入会権者の側からみれば何によって入会権の存在を公示するか、ということになります。人会権は登記なくして第三者に対抗しうるとしても、入会地の取引がほとんど行なわれなかった時期はともかく、入会地が取引されることが少なくない現在では、何が登記にかわる対抗要件、公示方法であるかを明らかにしておく必要があります。前述のごとく、採草、採薪等のための出入り労働がない場合ですが、人工植林や牛馬の放牧が行なわれている場合はそれが入会権の公示方法として十分であるために結局具体的な利用を伴わない原野の場合が最も問題となります。まず、市町村有の原野は前述のごとくほとんど部落有入会地であったものであるため、市町村の直営事業が行なわれている土地でないかぎり、一応部落住民の入会権が存在すると推定すべきです。形式上市町村有であっても、区有とか部落有林とよばれている場合がありますが、これは実質部落の入会地であることを示すものです。このように入会地は、区有地、部落有林、入会山、稼山さまざまの名称でよばれていますが、このような名称でよばれることが、入会地であることの証拠であり、それが入会権の公示、対抗要件である、というべきです。

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