山林の売買

山林という言葉は、林地とその上に集団的に生立する樹木とを一括して指す言葉として用いられるのが普通です。法律上も、森林法は山林という言葉ではなく森林という言葉を用いているのですが、この森林を、木竹が集団して生育している土地及びその土地の上にある立木竹を意味するもの、と定義しています。そして、山林売買を考える場合の山林の意味も、法律の目的は違いますが、この森林法の定義と同じに考えていいと思われます。なおこれと関連して、第一に、山林という言葉を用いている法律としては、不動産登記法施行令三条、所得税法三二条などがありますが、ここで用いる山林の意味は、これらの法律によって山林と呼ばれるかどうかとは一応切り離して考えて下さい。前の法律は、土地登記簿に地目が登記されることになっているところから、その地目の一つとして山林を掲げているわけですが、山林売買とは、登記簿上の地目には関係なく、実体が林業をなしている土地の売買のことだ、と考えて下さい。また、後の法律は、山林という言葉を、林地を除く立木だけを意味するものとして用いているのですが、山林売買を立木売買に限定することはできません。第二に、山林とは異なる土地のようにみえても、山林として取り扱っていい場合もあることに注意して下さい。例えば、牧野、採草放牧地でも、それが現に林業をなしている土地の場合には、やはり山林売買における山林に当たると考えていいでしょう。
以上のように、山林売買における山林は、森林法の定義する森林と同じ意味と考えていいのですが、ただ、山林には土地と立木の二つが合まれますから、山林売買の態様は、土地と立木とを一括して売買するいわゆる地付山林の売買に限られないことになります。すなわち、立木だけの売買も盛んに行なわれており、この立木売買のことを山を売ると観念している地方もあるくらいです。また、立木を留保して土地だけを売買するという態様もないわけではありませんし、さらには、伐木の売買も山林売買の一環として取り扱うべきでしょう。そして、立木売買や立木留保の売買のように、土地と立木とを別個の物として売買の目的となしうることについては、法律上も異論はないのです。このことは、判例でも学説でも古くから承認されております。ただしその際に、土地と立木との関係をどうとらえるかについては、見解が分かれています。すなわち、両者は本来別個の物であるという前提の下に、それぞれが別個に売買の目的となりうるのは当然だとする見解と、立木には建物のような独立性はなく、本来土地の一部であり構成部分であるという前提の下に、立木は土地の処分に服するのが原則だが、両者を切り離 して別個の物として処分することもできるとする見解とに分かれています。判例は後の見解をとっているのですが、立木の取引価値は地盤たる土地のそれを遥かに上回るものであることなどを考慮しますと、前の見解の方が妥当ではないかと思われます。とにかく、山林売買と一ロにいっても、ここに述べたような態様を含む、と考えなければならないことになります。しかしここでは、地付山林の売買と宅地の売買との比較が問題となっているのですから、地付山林の売買だけを説明することにします。
なお、山林売買にあたっては、国有林、公有林、私有林の区別、単独所有林、共有林、入会林の区別、用材林、薪炭林の区別、天然林、人工林の区別、伐採目的の立木売買と生育目的の立木売買との区別などが法律上どのような意味を持つかが問題になります。これらの点については、明らかにされていない点も多いのですが、関係の深い個所で指摘することにします。

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地付山林の売買の場合には、宅地の売買の場合と異なり、特に立木の取扱いに注意しなければなりません。この点、土地と立木とは別物という考え方をしないで、判例のように、立木は原則として土地の一部をなしその処分に服するという考え方をとりますと、地盤の土地を買えば、立木を除外する特約のないかぎり、立木も当然に買ったことになりますから、立木をことさら問題にしないでもよいようにみえますが、やはり立木は土地と別個の物とされる可能性をもっていますから、立木の取扱いに注意しなければならないのです。以下に、宅地の売買と異なる点を説明します。
登記簿を閲覧し、物件の現況、売主から第三者への所有権の動きが登記されていないかどうか、他に抵当に入れられていないかどう か、第三者が賃借権、地上権を設定していないかどうかなどを確認することが必要であることは、宅地を買う場合と変りないのですが、あわせて、立木について、立木登記が行なわれていないかどうかも確かめておく必要があります。というのは、もし売主が立木の保存登記をしていれば、買主は、土地とは別に、立本について移転登記をする必要を生じますし、また、売主から第三者へ立木の移転登記や抵当権設定登記が行なわれていれば、地付山林を買っても、この第三者に立木所有権の取得を対抗できないことになるからです。
売主の所有権を確認しておく必要のあることも、宅地の場合と異なりません。すなわち、売主が自分が所有者甲だと言った場合には、甲が所有者かどうかという点と、売主が甲本人かどうかという点とを、確認しなければならないわけです。所有者かどうかについては、甲が登記 名義人になっていても、登記には公信力がありませんから、甲を所有者と速断せず、さらに関込みなど別の方法で調査しておく必要があります。ただ地付山林売買の場合には、さらにこれと関連して、数人の記名共有になっているのでその数人の共有山林として買い受けたところが、実は集落民全員の入会山林で、全員の同意がなければ処分できないものだった、とか、共有山林の持分の売買において、売主甲が共有者の一人で持分の登記があるので買い受けたところが、実は持分の売買には他の共有者の承諾が必要だった、といったことがしばしばあり、これらの場合には、売買が無効となるおそれがありますから、これらの点にも注意しなければなりません。さらに加えて、地付山林売買においては、土地だけでなく、立木についても、それが果して甲の所有かどうかを調査しておかなければなりません。この点、最高裁の考え方によれば、甲の所有地に第三者乙が無権原で植栽している場合はもちろんのこと、土地の使用権原をもって植栽している場合にも、権原または立木所有権について対抗要件を備えていないかぎり、乙は、地付山林の買主に立木所有権を対抗できない、ということになると思われますが、このような考え方は、立木は原則として土地に付合するという前提をとってはじめて成り立つのであり、土地と立木とは本来別物という前提をとれば、結論も変わる可能性があり、議論の分かれているところです。したがって、紛争を予防する意味からも、立木が甲の所有に属するかどうかを確かめておくべきです。また、売主が甲の代理人として現われた場合には、代理権の有無を調査しなければなりませんが、特に共有山林や入会山林の売買においては、この点を十分に調査しておかなければなりません。
登記簿表題部の記載と比較しながら現場の調査をする必要があることも、宅地の売買の場合と同じですが、地付山林の売買の場合には、売主主張の山林と同一山林かどうかについて特に注意を払う必要があります。また、実際の面積が登記簿の記載より大きい場合が多いでしょうが、このような食違いがあるかどうかを確かめたうえで契約上のとりきめをどうするかを売主と話し合ってゆくべきです。境界線も不明確な場合が多いので、これもはっきりさせておくべきです。さらに、幼齢林の売買の場合はともかく、独立の取引価値を持つ立木が生立している山林売買では、代金の決定にあたって、土地と別個に立木も評価されますが、その場合、立本について、樹種、 樹齢、本数、材積が売主の言い分どおりかを調査しなければなりません。売主所有の立木の範囲は、実際には、例えば、数本の立本に売主の氏名が墨書されており、それらの木を結んだ線の範囲内というような方法で画されています。また、保安林の標識の存否も確認しておくべきです。さらに、第三者が明記方法を施していないかどうかを確認しておかなければなりません。明認方法を施している人がいると、その人に、立木所有権の取得を対抗できないことになります。
当該山林に、どういう法律上の制限が存在するかも、調査しておかなければなりません。例えば保安林、保安施設地区の指定などの制限の有無を調査しておく必要があります。また、現に林業をなしている土地であっても、それが牧野であれば牧野法上の制限を受けますし、採草放牧地であれば農地法上の制限を受けることになりますから、注意を要します。さらに、登記簿には現われていなくても、買主が否定できない第三者の利用権の負担が存在していないかどうかも、調査しておかなければなりません。
地付山林の売買においては、一般に、入札の方式は行なわれず、随意契約によっています。売買契約書作成にあたっては、物件、対価、手付、履行方法、担保責任、危険負担、固定資産税、火災保険料などの負担の分配、違約金などの諸点について定めておく必要がありますが、これらの点については、宅地の売買と違ったところはありません。
履行に際しては契約書に定めたところに従って履行されるわけですが、特に登記が問題となります。通常は、代金の支払と引換えに土地の移転登記がおこなわれることになります。そして、移転登記をしておかないと、二重買受人のような第三者が現われた場合に、所有権を対抗できなくなります。このことは、宅地の売買の場合と同じです。ただ、地付山林の売買においては、土地について登記さえしておけば、立本の所有権についても対抗力を備えたことになり、立本について別に立木登記をしたり明認方法を施したりする必要はない、ということを指摘しておきます。もっとも、逆に、土地の移転登記をしないで立木に明認方法を施しただけのときは、土地についてのみならず立木についてすら、その所有権取得を第三者に対抗できない、と判例はいっていますから、明認方法なら単独で簡単にできるからというので登記を省略するようなことをしてはいけないわけです。

田舎暮らし

農地の売買/ 農地の転用手続き/ 農地移転/ 農地の売買と登記/ 山林の売買/ 山林立木と庭木の売買/ 立木留保の山林売買/ 住宅地として仮登記名義の農地を購入したとき/ 小作地の返還/