居住用空間の形成

戦前の農家の家族構成は、傍系家族を農業労働力として抱えこんでいたので、家族数が10人前後というのも珍しくありませんでした。これに対し、従来のような田の字型間取りに代表される農村住宅では、家族数に比して室数が少なく、このため、夫婦寝室の確保はともかくとして、家族が個室を持つことは難しく、混寝、過密寝の状態がひきおこされていました。農繁期には、この居室のうち幾室かを農用に利用するとなると、そこを寝室として使っている家族の寝室を移動しなければならない事態もおこり、上述の状態は一層激化するわけです。さらに加えて、建具による間仕切りのため、室間のプライバシーは欠如するなど、住生活の混乱が常時引き起こされいました。戦後は、傍系家族を他産業に排出して、直系家族による家族構成の農家が多くなり、家族数も減少していきました。また、戦後の農村に浸透してきた民主化の機運や近代化の風潮、最近では家族の兼業化に伴う都市的生活様式の導入があって、旧来の住生活に対する反省を生み、ついで新しい住生活を希望するようになってきました。新しい農村住宅は、居住用空間の確立と農用空間の排除を指向しながら形成されていますが、従末の生活慣習や農業経営という土に密着した生活を、住宅空間のなかでどう処理するかなど、まだ解決のつかない問題が多くなっています。

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上記のような動きのなかで、最近の農村住宅に最も顕著にあらわれているのは、居住用空間の単一利用と個室確保の傾向です。居住用空間の単一利用とは、居住用空間を居住用目的にのみ使うことであって、これは住宅内から農用空間が排除されるに伴って、従来農用に転用してきた居住用空間も、居住用にのみ使うようになりました。そしてようやく、農用と居住用との多面的利用から脱して、居住用にのみ単一化する傾向が見られるようになってきたのです。この居住用空間の単一利用が確保されると同時に、家族員が個室を持つことがプライバシーの要求とともに強まっています。これは、農家自身の生活改善思想の浸透と、子弟の進学率の向上や近代的な自我意識の成長に裏づけられたものであって、最近のような家族構成の単純化と家族数の減少は一層この単一利用と個室化を定着させるのに役立っています。
個室化は、まず夫婦寝室、特に若夫婦寝室や、子供室や老人室の確保を一般的傾向としています。若夫婦の寝室は、親達の寝室から隔絶して配置することが望まれており、新築の場合は、2階にこれを設ける場合が多い。そして既存住宅の改造では、土間の一隅に1室を設けて、そこを若夫婦に利用させることが多い。そして親夫婦は、普通なんどや客座敷を寝室にしています。子供部屋を設けることは、新築住宅ではすでに常識であって、和式、様式いずれも採用されており、2階に設けることも多い。特に洋式の場合は板の間にベッドを、そして作り付けの洋服だんす、机、椅子、本棚などを置くのが一つの定型となっています。これは都市住宅の子供部屋と同じであって、そこにはもう土の匂いは感じられません。都市近郊の農村住宅には、これに類する形式が多く、この室では農業生活から全く離れた生活を営みたいとの要求が強い。こういう生活態度に裏づけられているときには、洋室でベッド使用も抵抗がありません。
個室を洋室にするか和室がよいかの選択は、都市、農村を問わず個人的な好みによるものですが、農村においても、今後若い層には個室を洋室にすることは定着する可能性を示しています。しかし、既存の田の字型住宅では、居住用空間の単一利用が指向されてはいても、その間取りのもつ制約条件が大きく、個室化の完全な実現やプライバシーの確保は困難です。このような点の解決策として、中廊下式間取りが取り上げられています。この中廊下式住宅は田の字型間取りの中央に中廊下を通して居室部分を2分し、それによって居室の独立性を保つという考え方です。改造の場合に、こうした手法がいわゆるモデル住宅として採用されるばかりか、新築の場合にも無条件にとりいれられていることがあります。田の字型間取りという条件のなかで、個室化をはかるとなると、たしかに中廊下を通すことはそれなりの効果はあります。しかし南北に居室を分けるため、北側の居室には日射が少なく、通風も悪いので、居室の条件としては十分ではありません。なお、農家の家族数は減少傾向にあるとはいっても、まだ3世代にわたるものが多いので、最低3寝室以上が必要とされます。

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