農村住宅の居住空間

従来の農村住宅では、床の間のある客座敷きとこれに続く居間とを接客用に供していました。冠婚葬祭の集まりや、その他、集落内の人寄せにはこの2室はもとより、その他の室まで使用する状態でした。こうした続き間については、今日でも依然として強い要求があります。しかし最近では、農村の結婚式も、周辺都市にある式場を使用する傾向が強くはなってきていますが、結婚式の前後に隣り近所の人たちを招いたり、葬式や仏事には依然として自宅が使われるので、その意味からも続き間の要求は大きい。しかし近年では家族の日常生活にも客座敷きを使うようになって、単なる接客専用の空間としておくという従来の座敷きの意識は稀薄になってきたことは見のがせません。農村に、人寄せの習慣が少なくなり、また村の周辺部に集会施設が完備し、そこに集まりが移行しないかぎり、住宅には、続き間の要求は残るであろうし、これを否定することは今日の段階でまだ無理が多い。座敷きを親夫婦の寝室とし、次の問を居間として使うことが多くなっています。そして人寄せの時には、その2室を客室に転用します。この使い方は、従来の田の字型間取りにもよく用いられていたものであるだけに、馴染みやすいということが原因しています。

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最近の新築住宅には、玄関脇に洋風応接室を設けることが多く、新しい接客空間の出現として注目されます。初めのうちは、これも生活のなかに密着せず、異質なものとして使いきれない状態がよく見られたものです。しかし、最近では個室を洋風化したことに対応して、次第に定着しつつあるようです。特にここを下足空間として農用との接点部分とした場合は、日常的な接客や農時の体息に有効に使われています。このような場合には、下足空間であること、日中の使用が多いことを考えて、日当たりのよいところに配置する必要があります。これが満足されないと、利用度が激減することが多くなります。
新築住宅では、作業土間を廃して玄関土間を設けることが、一般化していますが、ただこの玄関をどの向きに配置するかについては、多くの混乱がみられます。従来は、住宅の出入りには、南面した作業土間がつかわれていました。従末の住宅の配置は、住宅の前面、つまり南に作業庭を配し、圃場から作業庭を通って住宅の土間に直結できるようになっていました。しかし、今日の農業技術では、土間作業はもとより庭先作業も減少しており、苗床などの必要がなければ必ずしも出入り口は南面する必要もありません。主要道路のつき方にもよりますが、玄関の方位は北入り、東入り、西入りであっても差支えなくなったわけです。そうなれば多くの場合、居室を南面させ、付属部分を一部にまとめるのに容易です。南面玄関にしても、そこが勝手口に直結していない場合には、接客用として独立します。そうなると農業生活との接点部分として設定した台所への出入りのためには、屋外をまわらなくてはなりません。この南玄関を通り土間形式にして、台所と直結すれば、既存住宅の土間形式と同じであり、床上の居住用空間の配列に混乱が生じやすい。玄関を接客用のものに考えるか、日常の出入り口とし、農業生活との接点部分と考えて、一つの流れの起点とするか、この二つの考え方の整理によって、玄関の配置も決まってきます。
農村住宅の計画において、最も難しいのは台所の性格の設定です。すなわち、台所を上足空間とするか、下足空間として農業生活と住生活のクッションの役割をもたせるかの採択が必要となります。また、これと関連して、台所には炊事場と食事場を同一空間におくか、分離するかも考えなくてはなりません。現在、一般的な傾向としては、土間床の炊事場と食事場とが同一空間になっている形式が多くみられます。

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