漁村住宅の特長

漁村住宅のなかには、資本家である船主の住宅も当然含まれますが、それには漁業者住宅としての特色はあまりなく、見方によっては資産の程度による差異はあるにしても、形式としては単純な都市住宅となんら変わることのない様相を呈しています。ただその場合、同一屋敷内に、時には労務者の宿泊兼作業施設を設備することがあります。遠洋漁業の根提地や四国辺の捕鯨漁業の根拠地などになると、そうした施設の階上に大広間を設け、大漁の際にはそこで大盤振舞いをすることを習慣にしているところもあります。しかし住宅そのものにはほとんど特異点は見られません。また兼農漁家の住宅は、兼農の規模にもよりますが、一般的には農家住宅の様式に接近し、なかにはほとんどその差異の見られないものさえあります。これらを除けば、漁村住宅は、いわゆる小漁業者住宅になりますが、それにどのような特色が見られるかが問題になります。

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一般に、漁村における漁民の生活動線は、海岸との連絡が密である必要があります。そのために海岸線に直角の道路が発達します。一方で他の消費地との連絡道路も必要であるため、特殊な地形になると海岸線に直角に幹線が入ってくることもありますが、それらの連絡道路の大多数は海岸線に平行です。したがって、それが主幹的な役目をはたすので、仮に他にそれに平行して集落内の連絡路があっても、それは道路というほどのものではなく、時にはほとんどそれすらない場合もあります。かつて山形県の日本海沿岸の小漁村集落に大火があり、漁家はほとんど全焼したことがあります。その時は不幸にして海岸近くの商店から出火したので、火は強烈な西北風にあおられ、海岸に直交する道路が文字どおり導火線となって、後方に広く延焼しました。横断する道路がなかったため、消火活動も思うにまかせず、そのことが大火の原因となりました。これからみても漁村には、必ず海岸線に対し適当な平行路線が必要です。
このようにして路線により生活動線が海に強く指向されることは当然ですが、住宅においてもその事実が見られます。つまり道路に関係なく、むしろ住宅は海の存在を意識して構えられます。そして具体的には、表口と裏口とを問わず、なるべく海に近づきやすいように設けます。そこには方位の問題などはほとんど無視されています。
各々の宅地は、過密になることを避けるため、なるべく大きくすべきですが、集落全体の規模に制約されるので、あまり広くはできません。その結果2階建が多くなります。しかもその2階は海への展望が期待され、天候や漁群の往来の状態を、そこから探知しようという心理もそこにはあります。
また生産と生活の機能分離は、業態によっては、今後ともかなり困難な点がないわけではありません。しかし漁家は、元々主たる生産の場は海上であり、漁獲材の処理も多くは海辺かその付近で行なわれ、または他の港で水揚げして帰るということが多いので、生産物を住宅に持ち込んだり、加工作業をすることはあまりありません。ただ昆布や海苔の採集なり養殖をし、魚貝類の加工を家内工業的に行なう業種になると、住宅の一部を作業場にすることもあります。しかしそれは主として女性の作業分担になっています。
例えば北海道の昆布生産地になると、住宅に続いて、広い砂地の土間の仕事場があり、そこに昆布をならべて整理加工をするなどその一例です。また海苔地帯になると、やはり土間の一部を作業場として、そこで加工します。しかしそうした場所は、直接居住部分にまで開放させないで、隔壁を設けてもよいものです。よってさほど問題にはならず、一歩進めて共同作業場なり加工場を設けることによって解決のできることからです。
エンジンの部品や漁具、漁綱を格納したり、延繩の餌付け作業をどこで行なうかが問題になります。従来でも漁村によっては、海岸に網納屋を戸別に設けています。それは単に綱の格納ばかりでなく、網染めや補修などに広い面積を必要とするので、浜辺で行なう関係もあり、貴重品ながら重量もあり、容積も大きいので、住宅にまで持ち込めないからです。ナイロン糸が用いられるようになってからは、染色の必要はなくなりましたが、補修作業は残るので、そのためには共同作業場が要求されます。しかし網納屋を共同化することは困難です。またエンジンの部品などになると、貴重品であるからやはり家に持ち込みます。したがって住宅内またはそれに続く屋敷内に効置を設ける必要があります。延繩の餌付けなどは雨天でさえなければ、浜辺でも行なえます。しかし降雨の日でも、翌日天侯が回復すれば出漁するわけであるため、雨天だからといって、餌付けは中止できません。したがってどうしてもそうした作業を住宅内で行なうようになります。その意味からも共同作業場が必要となります。

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