農業生産

農業は食糧システムのなかで水産業とともに原料部門を担当しています。農業および水産業は他の産業のように、すでに存在している原料をある使用目的に適合させて変形したり、あるいはその位置を移動させたりするのではなく、自然の循環過程のなかから人間に必要な部分を取り出してくるのです。自然に存在するものを取り出すという点では、農業および水産業は鉱業に類似しているといえるかもしれませんが、鉱業はその対象物の再生産を考えておらず、生産が持続すれば資源はやがて枯渇する運命にあります。これに対して、農業および水産業が対象とする資源は自然が再生産してくれるため、自然の循環過程が維持されるかぎり、資源が枯渇するということはありえません。その点で鉱物資源と一線を画するために、農業および水産業が対象とする資源を生物資源とよぶことにします。

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生物資源は枯渇することがないかというと、そうではありません。自然の循環過程が破壊されるときは,生物資源といえども枯渇せざるをえません。自然の循環過程の破壊は様々の原因で発生しますが、もっとも一般的なのは過度の生産によって自然が再生能力を失う場合です。水産業は世界的な規模で資源の不足が懸念されていますが、その主要な原因のひとつに乱獲があげられています。農業も生産増加の結果、地力を低下させ、滅産へ転じた経験を過去に数多くもっています。しかし、消費が増加し、嗜好が多様化してくれば、増産が要求されるのは当然であるため、生物資源を増加しながら、それが枯渇しない方法を工夫しなくてはなりません。
生物資源の入手を純粋な自然の循環過程にのみ依存させるならば、そのような生産活動は農業ないし水産業というよりは、採集や狩猟ないし、漁撈と呼ぶべきです。本来の意味での農業、水産業は自然の循環過程を生産増加の方向で活発ならしめるようにインプットを行なっています。その場合の技術的前提はあくまでも自然の循環過程を基本的には破壊しないということです。さもなければ、生物資源の再生産は不可能になってしまうからです。したがって、生物資源の増産は環境保全と平行して進められなければなりません。
工業生産は工場という限られた空間のなかで、外部から供給されるエネルギーを使って、同じく外部から与えられる原料を変形するために、その変形に関するかぎり、技術は進歩し、生産効率は農業や水産業に比べて高いものが多くなっています。しかし、エネルギーや原料の供給に限界が発生したり、生産過程における廃棄物が工場の外部を汚染したりした場合、それに関する対策は従来あまり考えられていませんでした。これに対して、農業や水産業はその生産の場を自然そのものに置き、原則として生産手段を自然のなかに求めているため、資源の再生産と環境保全とは、原理的には農業や水産業の発生と同時に配慮されていたということができます。
しかし、実際には農業や水産業における増産の努力は環境破壊をもたらすことがしばしばあります。環境破壊はいうまでもなく次の段階で生物資源の滅産へ導き、これが結局は環境を回復しなくてはならないという動機の誘因となります。この必要性が充足されるにいたってはじめて生物資源増産の技術体系は定着するわけですが、そのような安定化をみずに滅亡した文明も数多く、環境破壊は生物資源の減産にとどまらず、汚染によって直接的ないし間接的に人体に影響を及ぽすこともあり、また工業などの他の産業の発達によって環境が破壊ないし汚染されて、生物資源が公害を受ける場合もあります。水産業は自然の循環過程を人為的に操作することに着手したばかりで、まだ鉱業に近い面をもっていますが、農業はその点では水産業より1歩前進しています。それだけに農業の生産構造は他の産業に比べてかなり違った性格をもっています。環境を保全しながら生物資源を培養しなくてはならないために、農業生産に使用される固定資本や経常投入材の内容は非常に特殊なものとなり、それらと結びつく労働の在り方も他の産業と異質な面をもっています。そしてこれらの農業インプットの特徴は結局、生産の増加や変化に対する反応をきわめて鈍感なものにしています。しかし、観察期間を長期にとれば、徐々に農業生産は増加し、その品目構成は消費の変化に順応しています。

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