省力的固定資本

生物の成長には一定のライフサイクルがあり、それが長期的にはその固定資本の性格を規定しますが、短期的には農業生産の季節性となって表れてきます。今日の農業技術はこの季節性を完全に自由に変えるところまで発達していないため、いまのところ季節性は農業生産に本有のものと考えざるをえません。このため以下にみるように農業生産は他産業に比べて生産の合理化、特に大量生産方式の適用を困難なものにしています。

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生物の成長が時間的前後関係に強く縛られているということは、生産過程全体をいくつかの単純な独立の過程に分割することを妨げています。もちろん、播種と肥培と収穫を中心に、農業生産が大ざっぱには独立の過程に分割されていないというのではありませんが、各部分の作業が安定したものであるとはいいがたく、もしこれが細く独立の過程に分割され、その各過程が安定したものであれば、その労働のかなりの部分を機械で置き換えることは決して困難なことではありません。しかし農業生産にはそのような前提が比較的乏しかったといわねばなりません。そのために農業における機械化は局部的には行なわれましたが、 全体としての体系をもてるようになるのはかなり後になってからでした。日本でもっとも早く機械化したものは、生産から本来分離した脱穀、調整過程です。動力耕耘機や田植機やスピードスプレイヤーやコンバインなど、耕耘、防除、収穫の各過程での機械化はおもに戦後のことであり、農機具の増加は近年特に著しい。
また農業では生産遇程の分割が仮に完全に行なわれていたとしても、各部分が季節性のために時間的に固定されているため、作業の各部分を同時併列的に展開することはできません。各部分の同時並列的展開は固定資本の利用を効率的にするので、大量生産方式の前提となりますが,農業においてはそのような可能性はきわめて希薄です。機械は一時点でいかに大規模生産に利用されても、常時使用されていなくては効率が悪く、農業で機械を効率的に使用するために、経営規模を拡大することはできますが、季節的前後関係を解消してしまっているわけではないため、その拡大にはおのずから限界があります。
しかし、それにもかかわらす労働不足の状況では機械化は好ましい方向といえます。土地の広大な国では農業生産そのものが粗放なため、それだけ生産過程が単純化していて労働を機械で置き換えやすい状態にあったため、経営の大規模化とともに、早い時期から機械化が展開し、労働生産性を高めたところもあります。しかし、この場合にも機械作業が同時並列的な生産遇程の中で進展しているわけではありません。
畜産物の生産は動物資本を基盤にしているため、生産をある程度周年的に営むことができます。動物にも季節性はないわけではありませんが、生産の周年性を妨げるものではなく、季節性を技術的に緩和することも可能です。畜産のこうした性格は、生産の同時併列的な展開を可能にし、生産過程の分業さえ発生させています。例えば肉牛や肉豚の飼育では生産と肥育が分業しており、養鶏でも種鶏飼育、ふ卵、小雛仕立て、採卵がそれぞれ分業しています。
この点でも施設園芸は畜産と類似した性格をもっています。設備を高度化することによって、植物の成長における季節性をある程度操作することができるからです。中小家畜による畜産および施設園芸は装置的固定資本の形成期間が短かく、生産の年間回転が数回できるので、製造業に類似した経営が可能になっていますが、省力化はまだ十分に発達していません。この点では穀類生産のほうが牛馬耕にみるように機械化ではありませんが、省力化が部分的に早くから行なわれています。省力化の程度は農産物の特性と開発の歴史にも依存しています。

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