農業工業化とトウモロコシ

農業の工業化方式がもっとも高度に進んでいるアメリカにおいて、種々の反省がなされてきているのですが、ピメンテルらの研究は注意すべき問題を提起しています。アメリカにおいてもっともエネルギーを消費する作物は果実であり、もっともエネルギーを使用しない作物は牧草であるといわれますが、トウモロコシはその中間に位置しています。したがって、トウモロコシの生産にあたって1エーカー当たりに投入されるエネルギーの投入量を計算することは、アメリカ農業のインプットにおけるエネルギーの平均量を推定する上で重要です。

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アメリカで、トウモロコシ畑1エーカーに投入されるエネルギーは、ピメンテルらの計算によると次のような状態です。1945年から1970年にかけて約94万キロカロリーから288万キロカロリーへと1エーカー当たりのエネルギー投下量は約3.1倍の増加を示しています。このうち、労働力は13,000キロカロリーから5,000キロカロリーヘと40%に滅っていますが、他のインプットは運輸の横ばいを除いてすべて上昇しています。なかでも、窒素、燐酸、カリの肥料や殺虫剤や除草剤の農薬の伸長率は顕著です。窒素にいたってはこの期間に16倍に増加したばかりでなく、エネルギー総投入量の31%を占め、燃料を抜いて第1位を確保するにいたっています。このようにエネルギーに換算した農業インプットの増加に対して、トウモロコシの生産量はどうかというと、この同じ期間に1エーカー当たりエネルギーに換算して305万キロカロリーから726万キロカロリーヘ、約2.4倍に増加しています。したがって、農業インプット1単位に対してトウモロコシ何単位がアウトプットしているかというと、エネルギー換算でみるならば、1945年の3.26キロカロリーから1970年の2.52キロカロリーヘと、明らかな滅少が認められるのです。
この計算結果は、従来の経済学説に対して重大な問題を提起することとなります。かつてリカルドらの古典学派は収穫逓滅の法則なるものを提出しましたが、これは農地においてもっとも典型的に証明されています。農地が一定の場合、そこにインプットが一定量ずつなされていくと、最初はインプットの増加以上にアウトプットが増加していきますが、インプットが相当量になれば、アウトプットの増加量は次第に減少し、ついには全然増加しなくなるか、あるいはむしろ滅少さえみせてくるということです。したがって、人口が増えて食糧需要が上昇してくれば、農地が一定ならば、やがては食糧危機が訪れることになります。マルサスの人口論はまさにこのような前提に立っているものと思われます。
ところが、歴史の示すところでは、人口が増加したにもかかわらず、食糧はむしろ豊富になったとさえいえます。少なくとも先進国においてはそれは事実です。これはアメリカをはじめとする新大陸やヨーロッパの植民地における農地の拡大が、19世紀に行なわれたためです。また20世紀に入ってからは、空中窒素を固定することによって化学肥料が製造され、これを多投することを前提にして品種改良などの一連の農業技術が開発され、単位面債当たり収量を増加させることができたからです。収量増加の技術進歩は農業関係者に多大の自信を与え、たとえばT.W.シュルツなどは、農業も工業と同じように土地の制約はもはやなくなり、生産費における地代の重要性は低下したと考えました。また、収量増加の技術開発は農業生産の進むぺき方向として、開発途上国におけるこの方式の普及が企図され、事実、緑の革命の名のもとにこれは現在推進されています。
農業生産は確かに農地の制約を受け、従来通りの農法でいけばインプットに対する限界生産性は低下し、収穫逓減の法則の適用を受けます。しかし、品種改良によってこの制約は除去できます。高収量品種はインプットを従来より以上に多く要求しますが、それ以上に収量が増加するため、インプット単位当たりの収量は増加し、農地の制約はそれだけ回避されるというものです。
以上のような学説に対して、エネルギーによって表現されたインプット、アウトプット関係はひとつの反対意見になります。アメリカのトウモロコシの例でみるかぎり、インプット単位当たり収量は明らかに滅少しているのです。品種改良による農業技術の進歩は一見インプットとアウトプットの関係を改善するようにみえるますが、その技術進歩はエネルギー資源の利用によってはじめて可能となるために、エネルギー次元で考えれば、やはり収穫逓滅法則が成り立っているわけです。さらに注釈を加えれば、ピルメンテルたちの計算には技術開発のための研究や普及に要したエネルギーは考慮されていませんでしたが、インプット、アウトプットの比率は一層低いものになるに違いありません。

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