農業安定化対策

農産物の価格が変動し、これが消費者と生産者との両方に経済合理性の実現を妨げているとすれば、これに対する対策は考えられてしかるべきです。需要側の変動要因を規制することは決して容易なことではありませんが、景気変動をはじめとして、激変を緩和する処理は、単に一般経済の立場からばかりでなく、農業の価格安定の面からも必要です。供給側の変動要因の規制には農業自身によって多くのことがなされるべきです。第一は在庫操作です。農産物は腐敗し易いといわれますが、近年では加工、流通分野の技術進歩によって、穀類ばかりでなく、生鮮食品の長期保存も可能になってきたので、これらのことを前提にして、畜産物にみられるように生産過剰のときに在庫し、不足のときに放出することができます。第二は、操業度調整です。農業の場合一般生産が開始されると、生産を中止したり、加滅したりすることは非常に困難です。しかし、果樹の摘花にみられるようにまったく不可能というわけではありません。生産や収穫を商業ペースで中止するということも最悪の場合は考慮に入れておく必要があります。第三は、情報システムの確立です。価格をはじめできるだけ多くの情報を収集し、これを短時間に流布して生産者の反応を便利にする必要があります。これは在庫操作や操業度調整と結合して、農産物価格を一定の安定帯に封じ込める価格政策へ展開していきます。第四は、農業保険です。価格変動によってこうむった損害を保険によってカバーし、生産を安定した軌道に乗せることができます。第五は、技術開発です。これは特に気象変動に対して安定件のある技術を開発していかねばなりません。

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農産物の価格変動が安定化したとして、その均衡価格は前に述べた理由から、そのまま放置しておくと長期的には相対的に低下する傾向があります。これは農業所得の相対的低下をもたらし、農業従事者はより良い所得を求めて他産業へ流出し、また農業に残った従事者は規模拡大によってその生産性を上げ、他産業従事者に匹敵する所得を享受するようにならなければなりません。 所得格差の是正は、価格支持政策だけでは達成できないことはすでにみたところであるため、それだけ生産政策、構造政策の必要が望まれます。
農業生産は時間的、空間的に元来、個別的性格をもっていますが、技術進歩によって、経常投入材や農機具のような普遮性のある生産資材を使用するようになりました。これらの生産資材の生産や流通はその不偏性のゆえに、農業生産とは異なった経済性の支配を受け、農業から分化、統合して、独立の産業部門を形成します。生産資材の生産および流通にはそれぞれ商品によって独自の規模の経済が働くため、それらが農業生産といっしょになっていたのでは、逆に高率を下げることになります。同じことは、生産物の供給側についてもいわれます。農産物物が農場を離れた瞬間から、それは農業生産の制約から解放され、農業生産とは違った技術の支配を受けることになります。食品流通業や食品工業が独立の産業部門として成立する理由もそこにあります。同じことは,農業金融についてもみられることです。農業生産がいかに個別的であっても、それを運営していくうえでの金融の取り扱いは、終局的には貨幣というきわめて一般的な財によってなされます。この貨幣の一般性は金融に規模の経済を実現させやすくします。金融上の取引きは小口より大口のほうが経費の点で有利です。また金融上の危険分散は保有資産の種類を多角化することによって得られますが、このためにも金融の取り扱いは大規模なほうが望ましい。信用業務は農業においてもこれから分化し、それ時体で統合する方向をたどるのです。農業における信用機能は、流通機能とともに農業協同組合の役割が顕著です。このように農業では、そのインプットの製造やアウトプットの処理、またそれらの流通、さらには金融という周辺部は農業から分化し、各々が統合して規模の経済を実現する方向に動いていますが、農業生産そのものはというと、農業生産のうち土地改良、農業保険、技術開発などは農家から分離して公共機関がこれらをとり扱うことによって規模の経済を実現しています。土地改良は土木技術の発達と比例して、大規模化したほうが造成面でも利用面でも有利です。しかし、そのためには巨大な資金が必要な上に、土地改良資本の懐妊期間と耐用年数が長いため民間の営利事業として営むには限界があります。土地改良事業が地主から政府へとそのウェイトを変えてきた歴史には、そのへんにひとつの理由があったようです。
土地改良に限らず、固定資本は農業の場合その懐妊期間と耐用年数が長く、その上農産物価格の不安定性が作用して、農業には資本制限という現象がしばしば発生します。つまり、資金を貸付ける場合、その償還に不確実性が強いため、他産業の場合より危険負担部分だけ利子率が高くなります。これによって農業生産者も借入れを躊躇するという態度が生じます。こうした資本制限を打破する意味でも、農業では補助金のみならず、制度金融の役割が大きくなります。
農業技術の開発とその普及は、高度の専門教育を受けた人材と精密で大規模な設備とを必要とし、しかも試行錯誤の研発過程はいまのところ研究に時間的見通しをたてにくくさせています。また開発や普及に要した費用が経済ペースで回収される保証はありません。情報は特許制度を設定しても、容易に流布してしまう可能性があります。零細経営の多い農業において技術の開発、普及を自由放任しておくと、きわめて効率の悪いことになりかねません。経済発展の低い段階ほどその懸念は大きくなります。明治政府は最初洋式農法の紹介、普及から始まり、明治26年には国立農事試騒場を設立し、篤農家的技術を近代化するような形で、明治36年頃から研究を軌道に乗せ、今日にいたっています。技術の社会化が日本農業の生産性を向上させてきたことは事実です。

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