農家の主体性

公共機関は広範囲の機能をもっているために、それが把握する管理機能に経済合理性以外の要素が混入する可能性があり、農業はそれだけ効率を損う危険があります。農業と他産業との所得格差が農業従事者の他産業流出をもっと円滑に行なえれば、大型経宮農家の出現によって農業の効率は高まるかもしれませんが、この労働移動自体が短期間には解決できそうにはありません。農業従事者の他産業部門流出が困難なことについては、様々な理由が考えられます。第一に職業の選択は人間一生の間題であり、世代交替を待たなければ実現しません。第二に農業従事者は土地、家屋の所有者で資産保有のために職業転換が難しい。第三に自作農家の所得は労働報酬のほかに地代、利子、利潤部分を含むため、他産業部門の労賃との比較が困難です。第四に農村のほうが食糧、その他の点で生活費が安く、実質的には必ずしも都市より低くはありません。第五に都市の生活、職業に対する不安があります。第六に農業従事者の多くは農村生活に愛着をもっています。

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価格支持政策が農業従事者の農外流出を妨げているということが、しばしば指摘されます。これはおそらく正しい推論です。このために所得格差はますます拡大して、価格の支持水準を押し上げていくばかりでなく、この結果経済全体の労働需給がバランスせずに、労賃上昇のなかで労働不足産業の製品値格を上昇させます。いわゆるセクターインフレの典型であると考えられています。しかし、職業選択が世代交替を待たなければならないとすれば、農家の所得維待は長期的には必ずしもマイナス面だけとはかぎりません。農家の生活が安定して、教育、文化水準が高まり、その子弟の農外流出を容易にするかもしれないからです。日本の場合、農家戸数は高度経済成長によっても著しく減少せず、昭和35年の606万戸から昭和48年の503万戸への低下であったため、1農家当たりの平均径営面積はほとんど変わってってないといえます。しかし、就業人口はこの間に1,196万人から624万人まで約半滅しています。この就業人口の激滅は完全脱農による部分もさることながら、兼業農家の激増を意味しています。昭和47年で兼業農家は全体の86.8%を占め、しかもそのうち恒常的兼業農家が65.8%に達している状態です。兼業農家の増加は農業労働の女性化、老齢化とも関係しています。家族労働を農業と他産業とに配分して全体としての所得を高めているばかりでなく、土地、家屋を住居として利用している上に、資産としても保有しているわけであるため、兼業農家の行動は、個人としては誠に経済合理的であるといわねばなりません。しかし、各農家が農業生産者としては零細経営にとどまっていることは、社会全体の資源利用の面からは効率が悪いといわなければなりません。しかし、狭義の農作業といえども生産機能は復雑で、その中から分化して規模の経済を実現する可能性は多く残っており、またそれを通じて、逆に経営管理機能を掌握していく傾向もみられます。すでに食品メーカーや農業インプットのメーカー、あるいは流通業者や農協はそれぞれ自己の経営上の立場から農家をインテグレートし、生産の全部ないし一部の管理を通じて現模の経済を実現しつつあります。
農業生産そのものの中にも様能的に統合する可能性があります。例えば零細な農家が大型の機械や施設を共同で購入し、各自の経営にそれらを共同で 適用していけばよいわけで、これは必ずしも経営の全面的統合を必要としません。しかしながら、農業生産の規模拡大を全面的に行なうにしろ、機能別に行なうにしろ、経営管理機能は統一的な主体性をもっていなくてはなりません。そのような統一主体の形成こそが農業返代化の鍵ということができます。経営管理機能を担う統一主体が何であれ、これを核として農業経営は次第に地域別に組織化されていく傾向があります。この過程で兼業農家は作業の一部ないし全部をこの統一主体に預託する外部依存の形態をとりはじめ、専業農家においても共同作業の形態がみられはじめました。都会化の波が農村へ渡及していますが、以上のような傾向を助長するためには、生物資源有成にふさわしい環境保全の必要が改めて要請されなくてはなりません。また、こうした再編成の過程において農業経営は、従来の農業の工業化方式を反省し、無公害、省エネルギーの農法の確立に努力するとともに、国際環境において、十分食糧の安定供給を可能とする農業を確立していかねばなりません。

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