農業政策の影響

農業政策の目的は様々ですが、そのなかで特に重要なものが二つあり、ひとつは農業者に農業の適正な所得を保証することであり、他は消費者に食糧の適正な価格を保証することです。この際の農業の適正な所得とは他の産業所得との比較でいわれることであり、食糧の適正な価格とは他の商品価格ないし食糧の国際価格との比較でいわれることです。すべての経済的資源が価格との関係で適正に配分されているならば、以上の目的は矛盾しないのですが、経済発展の過程で農業労働が他産業へ流出するためには時差を伴うために、一時点をとってみると、資源の配分は適正でないことになります。これは農業労働に対する報酬が他産業部門のそれに比べて相対的に低くなることを意味しています。その対策として長期的には構造政策がありますが、短期的には価格支持に頼るのがもっとも容易な方策です。

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価格支持政策はその手段が直接的であろうと間接的であろうと、一般的には国際競争力のない農産物の輸入を制限して、海外の安い農産物の国内流入を防止しなくてはなりません。つまり農産物の自給率は高くなる理屈です。ところが、そうなると食糧の国内価格が高くなり、消費者に適正な価格を保証できなくなってしまいます。農業政策のふたつの目的は短期的には実行段階で矛盾してしまうのです。この矛盾の解決策として、食糧を自給率の高いものと低いものとに二分してしまうことが考えられます。自給率を高く維持すれば、国内価格は概して高くなり、農業所得の維持に役立ち、自給率を低くすれば、日本の場合一般に安い食糧が海外から流入してくるため、消費者の物価対策に役立ちます。自給率の高い食糧には農業所得の適正化を、自給率の低い食糧には消費者価格の通正化をそれぞれ分担させ、こうして農業政策はその短期的な矛盾を解決しようとしたわけです。これが食糧自給率の二重構造をよりはっきりと浮き彫りにする結果になったと思われます。
農業政策は一般的な経済政策の一分野であり、経済政策全体はその時点の政治体制に強く支配されます。第二次大戦の結果、日本は植民地を失うとともに、アメリカなどの自由圏に所属することになりました。この結果、食糧の貿易圏も変化しました。このなかにあって、米と小麦との関係は特に注意すべき問題を含んでいます。それは、小麦の自給率が低下したのは戦後のことであって、戦前はむしろ完全自給に近かったからです。これに反して、米は昭和10年でその20%弱を準内地米と称して、植民地であった台湾、朝鮮から移入していました。第二次大戦によって植民地を夫い、準内地米の移入が不可能になった日本は、その代わりアメリカの小麦を輸入するようになりました。これは戦前の米の輸出基地であったインドシナ半島がタイを除いて国際紛争の港と化し、米の輸入が困難になったため米の輪入が容易でなかったからでもあります。このほかに、アメリカは戦時中から小麦を増産し、戦争終了によって過剰が予想されており、他方日本人は戦時中の粉食によって、小麦の消費を受け入れやすくしていた事実があげられます。高度経済成長は水田の裏作放棄によって小麦の生産を滅少させ、食生活の多様化によって小麦の消費を増加させ、小麦の自給率を一段と低下させました。逆に米は価格支持政策によって増産され、消費を食生活の多様化によって滅少し、完全自給体制が確立しました。

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