農業所得の改善

土地改革が小作農民を自作農化して小農にとって有利な分配率を実現しても、それだけでは小農の所得水準は十分には改善されません。小農の経営規模は小さく、その経営耕地の土木技術的条件は劣悪であることが多いため革新的農業技術を導入して規模の経済を実現することができないのです。規模が小さく技術水準が低位にあることは、小農の農業所得水準が低位、不安定であることの第一の条件です。土地改革後、農業所得の改善という目標への次の接近は、このような自作農的小農の経済的不安定を解決することでした。しかし、農業所得不安定のもうひとつの条件は、先進国における自作農的小農が資本主義経済体制の中に組み込まれていて、市場経済の仕組みによって農産物価格が決定されるということです。その市場で供給者の立場にある小農は非常に多数あって、敢然競争に近い条件で農業生産を行なっています。こういう構造のもとで生産される農度物は、経済的性質をもっているため価格変動が大きく、それが小農の農業所得を不安定なものにするのです。

スポンサーリンク

商品化の進んでいる先進地域の小農の所得安定をもたらす政策として、農産物の価格安定政策が採用されるようになります。価格安定政策は農産物価格支持政策という形をとって行なわれます。しかし、価格支持政策は国の経済政策をひとつの矛盾に陥らせます。それは国としては農業者の所得改善だけでなく、同時に消費者に妥当な価格で食糧を供給する責任も負っているからです。公正は農業者に対してだけでなく、消費者についても充足されなければならない福祉基準なのです。このふたつの公正目標を価格政策だけによって追求しようとすると矛盾に陥ります。そこに価格政策の限界があります。もし価格だけで解決をしようとすれば、生産者には高い価格を、消費者には安い値格を与え、その差類は公共的負担によるという方法しかありません。しかし、このような社会的選択は、今度は公共的負担の過大に苦しむという矛盾を内蔵しています。それは価格支持によって生産者側には農産物増産の誘因が働き、農産物供給は増大します。他方で食糧消費者価格は据えおいても、食糧生産物の価格弾力性は一般には小さいため、需要はそれほど伸びません。そこで、価格支持政策の結果として農産物の供給過剰が現れることになります。比較的近年まで先進国は、この農産物過剰問題をかかえていました。
農業所得の安定のために値格政策から目を転じて、農業生産の効率の向上という目標が登場してきます。その目標を実現するための政策が農業構造改善政策です。この政策は西欧諸国では直接には農産物過剰対策をきっかけとしてあらわれました。それは国民社会内部の農業生産者と消費者の間の調整から転じて、農業内部の専業的農業経営と小規模の兼業農家の社会的配置の調整へと向かったのです。構造改善の第一着手は生活基盤の改善です。生産基盤というのは、耕地の条件、灌水、排水施設、道路など農業生産の基本的手段である土地の土木技術的条件のことです。その条件を整備して農業生産活動をやりやすくするのが生産基盤の改善です。例えば区画の小さい、排水不足の水田には大型の動力機械を導入できないため、耕地区画を大きく整理して排水施設を完備すれば、新しい機械力を入れて労働生産性が向上します。農道を拡幅して舗装すれば、大型の農業機械を耕地まで自走で運ぶことができます。この農道を改良された一般道路に接続すれば農産物出荷の労働生産性も上昇します。これらは技術的外部経済効果を個別農業経営に与えるのです。
また、生産基盤の改善は小農の経営に規模の経済を実現する可能性を与えます。小農は経営規模を拡大することによって労働生産性を上昇させ経営内部の追加費用を節約することができます。規模拡大は小農の農業所得の不安定と低水準を改善するより根本的な方法です。

田舎暮らし

農民経済の不安定と土地所有/ 農業所得の改善/ 地主小作制度と農業構造/ 土地改革の内容/ 土地改革の経済的効果/ 小農/ 農業構造モデル/ 小農の所得形成/ 小農における規模拡大/ 農業生産の技術的不利/ 地域農業の組織化/ 農業生産組織/ 農業と外部効果/ 農村の工業化/