地主小作制度と農業構造

農業起業家は借地経営であっても、平均利潤を手にすることができます。しかし、後進地域の小農的小作農は平均利潤どころか、1人当りの農業所得は平均的労働賃金にも及ばないということが少なくありません。 小作農民にとって耕作権が安定していて、小作料の水準が適正ならば、小作制度そのものはとりたてて問題とはなりません。しかし後進地域の実情はそうではなく、多くの場合小作農家の耕作権は、安定せず小作料も著しく高く、このような土地制度のもとで小農、とりわけ小作農の生活と農業生産力は低い水準で停滞します。では、どのようなメカニズムが働いて、このような低水準、不安定な農業生産が行なわれるのでしょうか。耕作農民である小作農、自作農にとって寄生地主制がどのような制度的効果をもつか、またこの地主制のもとでの小農構造は小農経済にどんな影響があるかというと、どの国の例をみても地主、小作制のもと で小作料は高く、それは収穫量の50%から80%に及ぶことさえあります。その上これらの国の農業の土地生産力は低いので小作農民に対する分配は実物額でも非常に少なくなります。それは小作農の農業所得がきわめて低いということであって、小作農は農業資本蓄積の余裕がありません。生活費に仕向けられる支出額も限られるため教育水準も低く、革新的農業技術を取り入れるに必要な知識基盤に欠け、意欲も低く、経営行動は慣習的であり農業生産力は停帯的になります。

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このような高い小作料が成立するのかというと、その理由として大別すると封建説と競争説とがあります。
封建説の特徴は封建的社会関係の残存を主張することです。封建社会とまったく同じではないという意味で、半封建的社会関係という言葉がよく使われます。その主張は次の通りです。農村社会に封建制社会制度の遺物が完全に除去されずに残存しており、それが土地所有関係に投影され、経済的競争とは異なる社会的強制力が小作関係に作用して高い小作料を成立させているというものです。
競争説として国民経済的な視野でみた労働市場の狭さ、労働市場の狭さの原因である資本主義の末成熟が高い小作料の根本原因であると主張しています。非農業部門の労働市場の展開が不充分で就業機会が小さいため、小農は土地を借りて農業を営むほかに生計の道がなく、その結果土地に対する競争が激しくなります。その小作農民の土地に対する競争が小作料をつりあげるということになります。
競争説によると日本の戦前の地主制は、前近代的ではあるが半封建的ではないとされています。その根拠として、明治維新によって国が土地所有を認めたものは、自作農の自作農地と、商人や高利貸がもっていた貸付地であって、封建領主がもっていた旧領地の領有権は、土地所有権としてほとんど認められなかったことがあげられます。
農民の土地に対する競争が激しくなった背景には、耕作農民の耕作権が確立していなかったこと、すでに商品経済が農村に侵入していて、農家経済の運営のために貨幣収入が必要であったことなどがあります。耕作権の不安定は封建説の立場からいうと半封建的社会関係の残存によると説明されますが、競争説の立場では、地主、小作関係が近代的借地権に基づいていない前近代的権利関係であることは認められますが、それを封建的関係の残存とは考えないのです。近代的な借地権が地主、小作間に確立していれば、地主は小作人からたやすく土地を取り上げることができませんが、小作農の借地権が確立していない場合には、地主は常に有利な小作案件を申し出る農家に、その土地を小作させようとするので、小作地に対する小農の競争がはげしく、小作料はつりあげられる傾向にあります。
このような土地制度のもとでは、農地の貸借は農場単位ではなく、地片単位で行なわれることが多く、そのために一農家の耕作する耕地は零細地片があちこちに分散して存在することになり、耕作の能率も悪く、機械導入の阻害案件にもなります。
いままであげたこれらの事情はどれも小作農経営に革新技術が導入され難い条件なっていたのです。
高い小作料が得られるという土地所有の利益は、その地域の自作農の行動パターンにも影響を与えます。耕作地を自分で所有している自作農は自己の経営の拡大よりも、地主になって小作料収入を得たほうが有利だと考えます。その上、このような農村社会では自作農家よりも地主のほうが社会的の地位が上位とみられるため、地位の象徴としても自作農の地主化志向は強く、自作農は家計に少しでも余裕ができると土地を購入して貸付地をふやそうとします。地主制は自作農にとって経営規模拡大よりも、所有規模拡大、貸付地の増加という地主化への誘因として作用します。そのために農業部門の資本蓄積は自作農経営でもあまり進まず、零細経営が再生産されていくのです。
農民の多くが小作農である場合には、その生活水準は低く工業生産物の購入に仕向けられる支出額水準も低位にとどまります。そのために工業生産物に対する農村住民の需要は全体として小さくなります。工業生産物の農村市場が著しく狭いのです。農業就業者が国民経済内部の総就業者のうち大きな割合を占めている場合には、農村市場が狭いということは、すなわち国内市場が狭いということになります。それは工業発展のための長期的な安定的な国内的基礎が弱いということです。工業部門の成長にとって壁となります。このような工業発展の制約案件は工業部門の資本家集団にとって大きな関心の的となります。国民社会内部の政治過程で地主階級の勢力が相対的に弱体化し、産業資本家階級の発言力が強化するにつれて、この制約条件を打ち破ろうとする政策が登場します。それは地主制度を変革しょうとする土地政策、つまり農政改革政策です。第二次大戦の敗戦直前における日本の社会的勢力配置はすでにこのような農地改革政策を登場させる機運が熟しつつありました。

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