土地改革の経済的効果

小農的構造を基礎に成立していた寄生地主制を変革した農地改革の経済的効果は、これをふたつに分けて、直接的短期的効果と、間接的長期的効果とからみることが必要です。短期的効果は土地改革の目標として分配の公正と同時に農業生産の効率の向上があげられます。しかし分配の公正化が、直ちに効率の向上と直接的に結びつくとはかぎりません。効率が実現するには、それなりの条件が必要とされます。分配の公正化は土地改革の直接的な、最大の目的であるため、分配の公正がどの程度実現したかが土地改革の経済的効果をはかる第一の尺度です。分配の公正化は第一に土地所有の再分配によって実行されます。つまり寄生地主における土地所有配分の偏りと高率小作料に基づく地主所得部分が自作農となったもとの小作農の所得に移ることによって公正化は実現されます。もっとも、土地所有の再分配が有債で小作農の買受価格が高額であれば、地主は売却した土地代金によって将来地代を回収することとなり、自作農化したもと小作農は土地代金を支払うことによって将来地代を先払いすることとになり、小作農民の経済的負負担は軽くはなりません。そこで、土地改革が有債買収、売渡し方式で行なわれるときには、有償の土地価格が地主、小作人の経済にどういう利益、負担となったのかを確かめることが必要です。それによって高率小作料負担の軽滅が真に実現したかどうかも決まるのです。

スポンサーリンク

日本の場合には前述のように有償ではありましたが、農地改革がちょうど戦後インフレーションの激化の時期であったため、小作農にとっては著しく有利な結果となりました。この条件のもとで、農地改革は土地所有の再分配によって所得の再分配も期待できたのです。国民分配所得の配分は、戦前の昭和5年には農林業個人業主所得は9%、個人財産所得のうちの賃貸料所得は11%のシェアを占めていました。これが農地改革後の昭和30年には、農林業個人業主所得19%、個人財産所得のうちの賃貸料は2%と変化しました。これは、地主の土地が農民のものとなった結果の反映と考えられます。
こうして日本では、もと小作農民は土地改革によって改革後の早い時期に同じ経営規模のもと自作農とあまり変わらない条件のもとで経済競争のスタートをきることができたのです。それは小作農一戸当りの農業所得を増加させ、所得増加はこれら農民の貨幣支出を増大させました。このことは戦後の経済回復期における工業生産物の国内市場拡大にも一役買ったのです。
農地改革は土地所有の配分という点で公正化を実現しましたが、零細経営の小農制と、分散耕地制とはそのまま残りました。分散耕地制というのは、一戸の農業経営が耕作する田畑が一ケ所に集っていないで、あちこちに一枚ずつ、他の農家の田畑と入りくんで存在していることです。このような分散耕地制の存在は明らかに農作業の効率を妨げ、したがって生産の効率に対して阻害条件となります。ただ、分散耕地制が農地改革後の小型農用機械導入期に、機械化にプラスの作用を及ぼし、小型機械体系の普及を早めたことを指摘しておきます。それは次のような事情によります。
分散耕地制のもとでは、A氏の田とB氏の田とはすぐ隣り合わせに並んでいます。もしA氏が小型動力耕耘機を導入して自分の田で使うと、隣りのB氏の田では馬や牛を使うのがいかにもみじめになります。B氏がゆっくり牛で耕やしている間にA氏はもう隣りの耕耘を済ませて他の田へ移っています。それに馬のような敏惑な動物はすぐ近くで猛烈な耕耘機の音をたてられると満足に作業ができなくなります。このように作業能率が一見して違う機械をすぐ隣りの田で使われては、B氏にとって自分もと頑張らざるをえなくなります。このデモンストレーション効果によって小型農用機械はまたたく間に普及しました。もっとも、小型といっても零細経営には過剰投資となり、やがて償却不十分な農用機械を次々と買いかえて機械化貧乏という言葉をはやらせるにいたりました。
日本では土地改革によって小農経営における経済的競争が行なわれる制度的条件は一応ととのいましたが、農地の土地市場における競争的案件は農地法によってきわめて強く寄生されました。それは、この改革の主目標が社会改革に重点をおいていて、小作農の自作農化とそれによって期待される農村社会の安定が狙いであったために、農業生産の効率化については十分に配慮されていなかったことの現れともいえます。土地改革は大量の零細自作農を生み出し、自作農的土地所有を基礎とする零細経営群が農地改革後の日本農業構造の特徴となりました。

田舎暮らし

農民経済の不安定と土地所有/ 農業所得の改善/ 地主小作制度と農業構造/ 土地改革の内容/ 土地改革の経済的効果/ 小農/ 農業構造モデル/ 小農の所得形成/ 小農における規模拡大/ 農業生産の技術的不利/ 地域農業の組織化/ 農業生産組織/ 農業と外部効果/ 農村の工業化/