小農

小農を基礎とする農業の発展を阻害する制度的要因として、第一に考えられたのが、寄生地主制度でした。農地改革によって地主的土地所有制度が改革され、自作農的土地所有が確立した状態、つまり日本の農地改革後のような状態を考えてみると、そこでは労働力や資本財をもつ経営主体、農家と土地の所有者とは同一です。土地所有制度に基づく農業発展の阻害要因は取り除かれました。しかし小農という経営形態そのものは変わっていません。この小農は資本主義経済制度に組み込まれたとき、その社会内部でどのような役割を持っているのでしょうか。また資本主義展開のインパクトのもとでどのように変化するのでしょうか。小農をもう少し一般化した慨念に小生産者的生産様式とよばれるものがあります。家内工業などの自営業もそのひとつです。生産活動に就業する労働力と、生産活動に使用する資本ストック、生産手段とをひとつの経営主体の内で結合していて、働き手が同時に資本ストックの所有者または直接の使用者であるとき、このような生産の様式を小生産者的生産様式あるいは単に小生産といいます。

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小生産は歴史的事実からみると家族経営として営まれるのが普通です。とりわけ、農業は家族経営による小生産様式で営まれることが多く、この形態の農業生産を小農ともいうのです。そして耕作地が自己所有であれば、それは自作農的家族径営あるいは自作農的小農です。一般的には小生産者の社会集団は歴史の流れの中に位置づけてみると、国内における資本主義的経済制度の発展過程で、次第に資本家と賃金労働者に分解していく傾向があります。工業における資本家的企業と賃金労働者階級の成立については歴史的事実がそのことを示しています。しかし、農業部門ではこのような分解は必ずしも典型的な形をとりません。かといって小農の社会的、経済的な内容が国内の資本主義発展のインパクトのもとで不変かというとそうではなく、資本主義発展過程の中で、小農がどういう経緯をとって構造変化をするか、あるいはしないかについて大さく分けてふたつの学説があります。
ひとつは、小農理論とよばれるもので、小農の経済はリカードモデルとはまったく異なる経済原理によって運営されていると主張し、小農経済の優位性を強調します。もうひとつは、農民層分解論とよばれるもので、小農はその社会的性格のまったく異なる社会階級に分解し、その過程でリカードモデル的社会階級が形成されるという説です。
小農論の古典的著作はドイツのダビッド、ロシアのチャヤノフなどがいます。
チャヤノフの著書のドイツ語版副題は、農業における家族経済の理論の試み、と題されていますが、この副題はチャヤノフの主張を端的に表現しています。チャヤノフは農民経済の原理を、家族の消費欲望の充足のために行なわれる経済活動と規定し、この経済活動を規制する基本的法用を、欲求満足の程度と労働苦痛の程度との均衡に求めました。現代風にいえば、小農は家族労働を労働力によって得られる所得の限界効用と労働の限界不効用とが均衡するように、労働支出すると表現されます。
この小農は、資本家的大経営とは本質的に異なる経済法則によって動かされているもので、それは賃労働なき経済に特有のものです。もっともチャヤノフは、農民層分解による資本家的農業経営の形成も認めていました。特に欧米諸国では半ば自家労働に依拠し、半ば資本家的である企業がかなり広まっていることを指摘しています。しかし、ロシアの農村については、チャヤノフは資本家的生産方法の要素は、ロシアの農民の間では、これまで何ら重要な発展をとげなかったとしてロシアにおける農民層分解の進行に否定的な見解を示しました。この点がレーニンの見解と対立するものでした。またチャヤノフは、家族径済がその協同組合的組減によって強固にせられ、その地位を固待し得んことを望むものであるとして小農の維持に傾き、また小農経済が歴史上に示した抵抗力を強調し、小農経済理論の独自性を主張したので、小農論者とされています。

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