小農の所得形成

混合所得を得ている小農の所得形成メカニズムは、どのように説明されるのでしょうか。またその説明は、どのような制度的条件を前提として考えているのでしょうか。日本の自作農的家族経営の所得形成メカニズムについて、所得分配の機能的側面から接近する分野には、日本では近代経済学者たちが開拓したいくつかの有用な概念と論理があります。その論理は、常に一定の制度的構造を前提として展開されているものであるため、これらの理論的な説明は背景となっている制度的構造の前提と関連させながら理解する必要があります。

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多数の小農群が商品生産を目的として農業を営んでいるとすれば、そこにおける経済制度は競争的構造を持つと考えられます。実際に農業部門は完全競争のモデルに近いものとして経済学のテキストにもあげられています。そこでは農業生産の主体が非常に多数であるため、1個の生産主体が農産物を市場に供給する量は全体に比べるときわめて僅かであるため、1戸の供給量の増滅は市場におけるその農産物の価格にまったく影響しないものと仮定されています。小農はこのような農産物価格を市場から与えられたものとして行動することも、話の前提となっています。もちろん、ある農産物の主産地では、地域的組織化によって、その銘柄の農産物が、ある時期に特定市場で供給独占的に行動することはあります。その場合の価格形成は完全競争的ではなく、その地域の農家行動も完全競争的経済制度のもとでの行動とは異なっています。
このように農業生産物は競争的市場で販売されるとすれば、小農はその産出物について供給者の立場では競争的経済構造のもとにおかれているわけです。しかし、小農にとって投入要素のうち最も重要な労働力の場合はどうなるのでしょうか。小農が投入する農業労働力の供給は、やはり競争的な市場において供給されると仮定してよいのでしょうか。この問題に対しては、ふたつの異なる考え方があります。第1は小農の経営で就業する農業労働力は、競争的な労働市場において供給されるものとみなすことはできないとする立場です。与えられた歴史的条件のもとで、小農は自作農的土地所有者です。彼と彼の家族の労働力は家産としての農地と結びついて存在しての農家なのであって、土地と労働力の結合それ自体のゆえに自作農的家族経営なのです。このような歴史的に生成した制度的条件のもとで営まれる小農経営の労働力は、この結合形態のもとで、つまり農家という生活と経営とが一体化した活動形態のもとではじめて生活が可能なのであって、土地と労働力とが分離した形で、労働力だけ労働市場に放り出されたならば生計を維持できるだけの賃金は稼得できないような労働力をその家計の中に包み込んでいます。例えば老齢者、中年の主婦は小農形態のもとでは農業労働力として所得の一部を稼得できますが、自由な労働市場では一人前の労働力としては扱われません。また壮年の男子でも、農業以外の職業訓練をうけていないものは、単純労働以外の就業機会はないと考えられます。これらの労働市場では一人前の所得を恒常的に稼得できない労働力でも、家産としての土地を中心に農家世帯を構成し、小農経営を営むかぎり、何とか家計を維持できます。
小農の経営における農業労働は、経営主が自身とその家族労働力とを自己雇用するという形で労働供給が行なわれています。このような小農の労働供給条件は、小農の農業就業に特殊な性格を与えるという考え方です。他方、もう一方の考え方では、農業労働の供給は競争的な構造をもつという前提から出発します。小農の条件でも農業労働供給は完全競争的状況のもとにあると仮定し、それにもかかわらず農業部門の就業には、非農業と異なる特殊な性格があらわれるとしました。その特殊な性格を表現するために過剰就業という概念を提起したのでした。
過剰就業の概念と、過剰就業があらわれるメカニズムを説明するには、限界生産力説の知識が必要です。なぜならば過剰就業を一つの産業における労働力の限界生産力が、他の部門における労働の限界生産力に比べて恒常的に低位にあるとき、その産業は過剰就業の状態にあると定義しているからです。この定義は、ある産業部門の賃金は、その部門の労働の限界生産性に等しくなる傾向があるという近代経済学の周知の命題を基礎にしているものと同じものです。
もしその産業から現に就業している労働者を引あげるならば、それに従って労働の限界生産力は上昇します。そしてやがて他部門のそれの水準と等しくなることとなります。その意味において、そこには限界生産力を低位ならしめている原因として就業の過剰が存在すると見られます。

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