小農における規模拡大

借地による資本家的農業が成立する条件は、借地地代、雇用労働者賃金を支払ってなお平均利潤が残るということでした。これを日本の小農経営の現実にあてはめてみると、もしある経営が農業収入から物的生産費を差し引いたあとの純生産部分から、地代相当分、農業臨時雇賃金率で見積った自家労働費を控除してなお、農協の制度金融貸付金利に相当する資本利子を上回る利潤に見合う剰余をあげることができれば、その経営は借地によって農業日雇を雇い、資本を制度金融に頼って、借地的富農経営を営むことができるはずです。その場合に農地の貸し手が必要ですが、もし大経営農家の純生産に含まれる地代に相対する剰余と、小経営農家の農業所得とが等しければ、小経営農家は自分で苦労して農業をやるよりも、所有権を確保したまま大経営に農地を貸して地代を受け取るという行動をとるはずです。その場合小作契約を結ぶことによって生じる耕作権に対してどんな制度が行なわれるかで問題はかわってきます。

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耕作権の安定を重視して耕作権保護的な制度が行なわれれば、地主のほうは所有地を契約期間内に売りたいときに借地経営者に離作料を支払わなげればならないため、その分も見込んだ地代でないと貸さないかもしれません。他方耕作権を重視しない制度のもとでは、借地経営者は規模の拡大をある限度以上にすることをためらうこととなります。例えば雇用労働者を2年契約で雇っておいたのに、年度途中で地主から借入地の返還を求められ、代替地の借入がすぐにできないとすると、借地経営者は余分な労働力をかかえこんだことになってしまいます。当事者は労働者の生活保障負担をしなければならない立場になります。
経営耕地規模の拡大へ向かって規模の大きい上層農家が行動するには、規模拡大による有利性、規模の経済が働かなくてはなりません。しかし、これまで日本の小農の間には全体としては規模の大きい上層農と規模の小さい下層農との間に、大きい経営が絶対有利となるほどの明確な生産性格差はみられませんでした。ということは上層農家が追加農地を購入して規模を拡大することによって入手できる限界収益は、中、下層農のそれよりも著しく高いというわけではなかったのです。そのために農地移動は必ずしも下から上という傾向を示しませんでした。
上層農と零細農との間で農業生産力の格差が大きくない場合には、上層農が規模を拡大しようとして追加10アールの農地を借入することによって得られる追加所得は、上層農も零細農もあまり差がないことになります。その場合には、両者の限界農地純収益の差が小さいため、上層農は零細農が当然要求するものに見合う借地料を支払うとあとにほとんど剰余が残らないことになり、上層農には借地をして規模を拡大する誘因はないことになります。この場合には上層農は規模拡大的行動はとりません。他方で、中規模経営農家は、不安定兼業の安定化を農地に求めようとするため、農地はむしろ中現模経営農家に流れるようになります。昭和40年以前の農地移動はそういう状況を示していました。昭和42年の時点で大きい経営と小さい経営との間の生産力格差に質的な変化がみられるとしています。

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