農業生産の技術的不利

農業生産が工業生産と比べて不利な点は何でしょうか。それは生産主体が制御できる条件の範囲が工業よりも狭いということです。農業は工業に比べると生産の規模を拡大しても費用節約の効果がそれほど大きく期待できない産業部門です。それは農業の労働対象が生物であるために、農業労働行程が工業のそれに比べて特殊な性質をもつからです。例えば工業の機械的生産に比べると個々の生物には、生理的、形態的な個性があって標準化されにくく、もちろん品種改良や生育環境を人工的に制御することによって個別差は小さくなってはいますが、それでも機械のようにはいきません。近年のブロイラー生産には、養鶏専門農業協同組合が雛を供給し、各飼養農家に詳細な毎日の給餌、消毒など基準管理の指示をして全体の生産をコントロールしている場合がみられますが、それでも個体差と農家による技能差のために成果にかなりなバラツキがあらわれるようです。

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また、露地の植物生産では圃場作業が生産労働の中心になりますが、あまり広い面積の圃場になると作業のための移動時間が馬鹿にならなくて作業適期を逸したり、作業が粗くなりすぎて、逆に効率が悪くなることがあるようです。特に農業の生産過程には生産者が制御しきれない自然条件の作用が大きな影響をもっています。この作用によって生産物の質や量が変化します。その影響を少なくするには、労働対象の生物を、いつも管理者の目のとどく範囲において、すばやい対応をしなければなりません。規模が大きくなりすぎると、このような自然環境の変化にうまく対応できなくなります。もちろん、これらの不利は技術革新によってかなりな程度まで克服できる性質のものです。よって長期的にみれば農業部門でも規模の経済の効果は技術革新に伴って様々なな面でみられます。またその効果がみられるかぎり大規模経営の有利性もあらわれます。しかし、小農経営はこの有利性を実現する上で経済的に不利な条件をもっています。もっとも、技術水準を一定とすれば、管理によく目がとどくという点で小経営のほうが有利な面もあります。これが小農論者の小農を有利とするひとつの論拠となっています。
農業の生産期間は工業のそれに比べると一般に長い場合が多く、植物生産について考えてみると、作物の生産期間は播種から結実、取穫までの期間です。例えば稲は播種から収穫まで約150日かかります。生産期間が長いということは、生産者の意志決定に小まわりがきかず、一度生産に着手すれば、その生産期間が終わるまでの間は、その生産物について全損失を覚悟しないかぎり、決定を変更できないことです。生産者は市場における価格変動に対して機敏な対応ができません。それは短期的にみると農業生産物の供給弾力性がゼロということになります。供給側の条件としては、生産過程の制御が難かしいだけでなく、生産物の貯蔵性が低いため、腐敗しやすく容積が大きいという難点があり、販売に当っても制御が難しいのです。また、生産者が実際に労働する期間は、この生産期間のうちの一部にすぎない、というのも農業生産の特徴です。もっとも、工業でも装置工業の一部には自然の発酵過程にたよるなど生産期間と労働期間の異なるものがあり、農業でも畜産業は生産期間と労働期間との差が比較的小さい。しかし植物生産特に穀物生産では両者の差は大きく、農繁期といわれる集中的労働投入期にはものすごく忙しいのですが、植物の自然成有にまかせている間は比較的暇になります。さらに一年一作の場合には作付けしない期間があり、この期間の農業労働は、いくつかの準備作業労働に限られます。
このような農業労働の年間配分の不均等に関する季節的制約を季節的失業の原因と認めて、この現象が小農の遇剰就業と密接な関連があるとしています。このような、生産期間に対する労働日の遇少は農業労働の植物生産という性質からくる技術的制約であって、その意味で非自発的なものです。
農業の労働日は同じ1日でも、季節によって投入の効果が異なります。農閉期の前準備作業1日労働は、農繁期の1日労働と比べると生産効果に格段の差があります。このような季節的繁閑は固定資本投入についても制約条件となります。なぜならば年間の固定資本財利用日数は、労働投入よりももっと繁閑があるからです。例えば田植機は田植時期にしか使いません。したがってその利用率は非常に低くなり、資本の投資効率は悪くなります。
小農はこのような労働の繁閑を少なくして年間どの月にも均等な所得を得ようとします。ひとつの方向は、いくつかの農業部門を組み合せて複合経営を営むことです。しかし、各部門の労働ピークを調整して重ならないようにすることはかなり困難です。市場における競争が激しい部門ほど、市場条件に合せて生産の時期を調整することになるため、他の農業部門と労働ピークが重なりやすくなります。それを解決する手っとりばやい方法として行なわれるのが出稼ぎ労働ということになります。歴史的には、出稼ぎは単作地帯の稲作農民が農閑期の就業機会を、同様に労働の季節性がある他の部門、あるいは同じ農業部門の就業に求めたものでした。しかし、現在では出稼ぎは地元兼業機会の少ない地域の農民が、小農の低所得水準を補うための恒常的な所得稼得方法となっています。東北地方はその典型です。
このような農業の労働投入の季節的繁閑は小農の過剰就業のひとつの要因ではありますが、それは技術的な制約条件であって、どんな経済制度のもとでも必ず農業部門で発生するというものではありません。むしろ小農構造のもとで、特に強い制約として作用する性質をもっています。

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