農村の工業化

昭和35年から40年代の始めにかけて、多くのの市町村で工場誘致条例という条例を制定しました。それらの市町村の大部分は、これまで工場の立地の少ない市町村でした。条例の内容は市町村によって少しずつ違いますが、共通していることは、その市町村に工場がくれば、その工場にとって経済的な恩恵が得られるような条件をうたっていることです。例えば不動産取得税、固定資産税など自治体が徴収する地方税を一定期間減免する。工場用地を安く斡旋する。などがあります。もっともこのような地方税の減免は、なにかの形であとで市町村の財政におまけをつけて戻ってくることが期待されています。また、国が工場の地方分散を奨励するために、市町村が負った負担を国が地方交付税で面倒をみるという制度があり、この制度の適用をうける地域であれば、市町村はそれほど損はしません。なぜ市町村や国は農村地帯に工場を立地させようとするのでしょうか。それはその地域内の資源利用の経済効率を高めることが期待されているからです。現状ではその地域内の資源利用の効率が悪いと判断されていることになります。利用の仕方によってはもっと高い生産力水準でその地域の生産諸要素を利用できるのに、現状では低い生産力水準でしか利用されていないということです。よって高い生産力を発揮できる用途に、地域内の資源を振替えと、その生産要素に帰属する所得も多くなることが期待されるわけです。この考え方は、最近効率至上主義の開発思想として批判されてきていますが、最近までの地域開発の考え方は効率の向上を通じてのみ公正が実現できるというものでした。

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市町村については工場誘致のために一時税金を安くしても、後で長期にわたって固定資産税を入手でき、雇用される地元住民の所得が上昇すれば、所得税に比例する所得税、住民税も増収になり、さらに地元消費も拡大して、地域の経済活動が発展するということでした。
この話を裏からみると、企業にとっては通常の競争条件では、その農村地域に立地するのは経済的に引き合わないということです。それを財政による補助で、本来は企業が負担する費用の一部を、公共的に負担しようということです。もっとも、この場合に国民的便益を考えると補助金の支出がそのまま全部国民の負担になっているというのは公平な言い方ではありません。補助の対象となった経済活動が国民経済に便益をもたらすならば、その便益と公共支出との差が国民経済の負担となります。この場合に利用の効率が悪いと判断されている地域内の資源は、土地と労働力になります。
例えば、ある地域のセメント原料を利用するセメント工場が設立されたとします。セメント工場の立地に関連してセメント包装用袋を製造する工場が新しく立地したとします。この袋工場に対してセメント工場は、袋工場の後から関連します。つまり袋工場の製品がセメント工場の投入物となります。これに対してセメント工場で製造されたセメントを利用するコンクリートブロック工場が設立されれば、これはセメントを原料として投入する産業なので、前方が関連する工場といえます。
これらの効果の発生は、ある産業の産出物が他の産業の投入要素となるという関係で連関しあうことによるものです。
農村への工場立地はこのような産業間誘発投資効果を、その地域の農業に対してもつでしょうか。それがあるとすれば、まず農産物を原料とする食品加工業の創設です。例えばビール工場が設立され、その地域で契約栽培によってビール麦の栽培、ホップの栽培が行なわれるようになれば、これは一種の後方連関的派生需要効果といえます。しかし、このようなビール麦やホップの栽培は、その地域で新しく農業という企業の創設があったわけではなく、従来あった別な作物からの転作によって新しく栽培されたものです。したがって、そこで誘発された新投資というものは、あったとしてもかなり小さいものと考えなければなりません。この場合農業部門への後方連閑的投資誘発効果という点で食品産業はそれほど大きいものではありません。また、ビール工場のビールかすを飼料とする畜産が創設されれば、これは母体産業であるビール工業の産出物を利用する前方連関的産業です。この場合のほうが転作よりも投資誘発効果は大きいかもしれません。
また、農業部門そのものを母体産業と考えることもできます。例えば、畜産の立地が主産地形成にいたれば、この畜産物を利用する会品加工場が設立されます。これは、農業を母体産業とした場合の前方連関産業です。現在各地にある内陸型の中小規模食品工場の多くは地元の農産物を基礎とし、周辺や遠隔地から原料を集めて成立した地場産業が多く、これらの農業関連食品工場は、後方連関にしても、前方連関にしても、せいぜい一段階前か後の結合ができるだけで、それ以上の連結にはならないのがふつうです。その理由は、農産物そのものが最終消費財であることが多く、加工されるとしてもせいぜい1回か2回の加工で最終消費財となるという性質をもっているからです。農村に立地する工業で生産物の面で農業と関連しあうのは、この食品工業のほかには農用機械工場など農業投入財工業であって、工業全体の業種からみれば、ごく限られた業種だけです。
農村工業導入で農村に立地する工場の多くは、農業生産物とは、前方も、後方も連関のないものが多、その工場の立地が地元に及ぼすインパクト効果は何かというと、それは地元のもっている土地と労働力、とりわけ労働力に対するものです。このインパクト効果は、工場立地が地元労働市場を仲立ちとして、農家家計の保有する労働力の雇用、所得の稼得に影響を与えます。

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